Webinar Summary

緊密化する中ASEAN経済、日本ビジネスの進路

2022年5月31日(火)

11:00~12:00(日本時間)

【概要】

本セッションでは、コロナ禍でも中国とASEANの経済的結びつきが更に強まっている実態を最新のファクトと調査・分析結果に基づいて明らかにしていくとともに、そうした状況下で、日本の産業界、各企業が、今後どのように、東南アジア地域を中心にグローバルビジネスを展開にしていくべきかについて、有識者を交えて議論を行った。
冒頭、経済同友会 副代表幹事、JSR㈱ 名誉会長である小柴氏が基調講演を行った。世界秩序の長期循環の中で2010年代後半から転換期に差し掛かっており、また科学技術面でも2020年代半ばに革新的な進歩を遂げて社会構造が変わる大きな転換期にあるとの問題意識をもとに、企業経営者は経済安全保障の当事者であるべきという提言を経済同友会が2021年4月に行ったことを紹介。
続いて、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社の邉見氏の講演では、昨年の日ASEANビジネスウィークでの発表内容からの更なる進捗を紹介。コロナ禍でも、東南アジア各国経済の中国との貿易への依存度が高まっているファクトを紹介するとともに、日本企業からは見えにくい中国企業の動向として、「見えない需要への投資」、「見えない場所への投資」、「見えないパートナーへの投資」があるという見方を提示し、具体的な業界で見たケースを紹介。今後の日本企業の進路のヒントとして、日本企業とグローバルマーケットとで、5つの認識のズレがありうるということを披露。
上記の講演内容をベースに、国際政治学の専門家である慶應義塾大学教授の神保氏も交えたパネルディスカッションが行われ、次のようなポイントを中心に、日系企業の今後のビジネス検討する上で、示唆に富んだ議論が展開された。ASEANは国ごとに違いが大きく、それぞれの違いをよく見ながらビジネスの仕方、枠組みの作り方を考えていく必要があること。2030年頃にはASEAN10カ国合計のGDPは日本を追い越す規模になり、対等なパートナーとして協力を考えていく視点の重要性。経済安全保障への対応として、産業界と政府の対話の場を、日米だけでなくASEANにも展開することの必要性。利己的に動く中米欧という3大経済圏の中である日本とASEANという視点の中で、多国間連携を繋ぎ止める杭として非常に重要な位置にあること。相対的によく分析する中で日本が東南アジアに貢献できる強み、スペシャリティを見極めることの重要性と、候補となる分野として、量子技術をもとにした次世代計算基盤、高速通信、バイオ技術、人間を大事にする社会が挙げられた。また、先が見通せない今の時代には、ASEANとの関係も含めて、決断を早くしすぎず、経営オプションをできるだけ増やしておくことの大事さも指摘された。

【基調講演】

[小柴 満信(経済同友会 副代表幹事、JSR㈱ 名誉会長)]

Summary Detail Day 2 - 1

40年ほどJSRで半導体サプライチェーンを含む先端分野、素材産業の育成に取り組み、2009年からは経営者として自社の事業ポートフォリオの変革を通じた企業成長と企業価値の向上に取り組んできた。世界各地域における事業進出や設備・戦略投資の意思決定について、市場成長や動向だけでなく、地政学的な分析を長期の経営戦略や意思決定の中に取り入れてきた。

経済同友会では経済安全保証と先端技術を担当。経済同友会は、2021年の4月に、「時代は変わった。そして日本企業は今非常事態にいると認識すべき」という主張のもと、『強靭な経済安全保障の確立に向けて-地政学の時代に日本がとるべき針路とは-』という意見書を提出した。その根本にある問題意識は、2010年代後半に世界秩序の長期循環が、地政学者や投資家などから見ても、大きな転換期に差し掛かっているということ。
また、2018年に経済同友会が提出した意見書にあるように、科学技術は2020年代半ばに革新的な進歩を遂げて社会構造が大きく変わるという問題意識、また、2020年代は不確実でボラティリティの高い状態が続き、経済や先端技術が武器として用いられる状態が続くという危機感を抱いており、それが現実になっている。
2000〜2010年代のグローバル化・自由主義経済の時代は終わりを遂げ、国家、国土、国民などの安全が確保されて初めて我々の企業活動が成り立つという、今まで当たり前だったことを考えなおす2020年代になった。2021年4月の提言では、経営者は、経済安全保障の当事者であるという意識を持つべきであると踏み込んだ提言を行った。

米中欧の三大経済圏は公助を語りつつも、自国や自地域中心の経済政策、ルールづくりを進めている。このような世界のパワーバランスの中で、日本はとても難しい立場に置かれている。これはASEAN含むインド太平洋諸国、そして同地域で活動する企業にも当てはまる。
本日は主にASEANと日本に絞って、このような世界情勢の中、日本にとって経済的・文化的な結びつきが強いASEAN諸国との共存の方向性を、識者の皆様と意見交換し、私自身もASEANに対しての知識をさらに深めたい。

【講演】

[邉見 伸弘(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員・パートナー/チーフストラテジスト、モニターデロイトインスティチュート リーダー)]

Summary Detail Day 2 - 1

昨年の日ASEANビジネスウィークで著書の「チャイナ・アセアンの衝撃」をベースに話して以降、世界が直面している状況やこれをASEANの中でどのように受け止めていったらいいのかについてお話をしたい。
「チャイナ・アセアンの衝撃」についてポイントを4点ほど簡単に振り返りたい。
1つ目は、「China ASEAN経済圏」。コロナ禍でも、中国と東南アジアの経済的な結びつきがマクロでもミクロでも強くなっている。中国の双循環政策のうち、ASEANと繋がっていく外循環政策では、東南アジアの都市を起点とした結びつきが強まっている。これらの都市は2030年には日本の政令指定都市の経済規模を上回る見込み。これに伴いローカル大企業も台頭してくる。
2つ目は、直前の話とも繋がる「China ASEANを先導するギガ都市」。都市群という面の視点が重要で、中国内では、北京経済圏や上海経済圏だけでなく、深圳などのグレーターベイエリアや重慶・成都など西部の都市群も意識する必要がある。これらのエリアと東南アジアのメコン地域は高速道路等でつながり、物流が飛躍的に改善している。これを背景にeコマース、ライブコマース等で非常に活況であり、China ASEANの都市間での経済連携が深まっているといえる。
3つ目としては「進化する越境EC」。道路・鉄道などのインフラが整うことに加え、中国資本や東南アジアローカルのECプラットフォーマーが組み合わさり双方向のビジネスが活発化している。
また、4つ目としては、「華僑・華人ネットワーク」がある。これらの新しい動きの中心にも華人・華僑がいて、新しい世代の華人華僑ネットワークというところにも注目しておく必要がある。政官財学のコミュニティが繋がっていて、情報が早く集まり、意思決定が早くなっている側面もある。

こういった去年話した内容を踏まえて、何が進んだのかを説明する。まず、中国の貿易相手としてのASEANの重要性が上がってきているということ。2020年にはEUを抜いてトップになり、直近の2022年1Qも非常に伸びている。一方で、日本は、中国の貿易相手としては、2021年まで、ASEAN、EU、アメリカに続いて第4位だったが、2022年の1Qには韓国に逆転された。中国視点でのこうしたマクロ経済の状況は頭の中に置いておく必要がある。
ASEAN視点での中国との結びつきも強まっている。「貿易における対中依存度」と「GDPに対する貿易の規模」は、各国とも、2018年から2021年の3年で上昇している。つまり、ASEAN各国経済は、中国との貿易への依存度が高まり、経済関係が深まっている。

コロナ禍で、日本企業から見えない世界で、ビジネス面で加速した点について3つ触れたい。
1つ目は、経済成長の不確実性が高まる中、見えない需要へいかに投資をできるか。中国企業は、将来起こる成長、新しい商品にも先行投資を積極的に行なっている。
2つ目は、地政学上の不確実性の増加、すなわち、相手が見えるか見えないか。東南アジアでは、中国の工場が建っていなくても、先ほど説明したように物流が改善して繋がっていて、工場は中国にあって運ばれてくるものが増えている。東南アジアから直接見えない場所での投資も重要なポイントになってきている。
3つ目は、サプライチェーンの不確実性が高まる中、パートナーとの組み方、見えないパートナーへの投資という視点も重要。中国企業はバリューチェーンを組む上で、日系も含めてナンバーワンのパートナーとうまく組んでいる。

中国の製造業を見ていく上で、少し分類を整理しておきたい。業界集中度の高低と成長産業か成熟産業かという二つの要素で分類すると、業界集中度と成長性が高い方から順に、「コア素材産業群」、「加工組立産業群」、「生活関連産業群」、「重厚長大型産業群」と大きく区分けできる。中国の進出形態をこれに合わせて整理すると、「コア素材産業群」は中国国内で競争し、付加価値が高い分輸送費割合が低いため、それを中国からASEANに輸出していくというパターンになる。「重厚長大型産業群」は運ぶには重くて輸送コストが高いので、地産地消型でASEAN現地で生産するパターンになる。この間には、車などの「加工組立産業群」や、「生活関連産業群」があるが、これらは輸出型と現地生産型のハイブリッドになる。今回は、「コア素材産業群」のEVバッテリーセパレーターと、「重厚長大型産業群」のセメントをケースとして見ていきたい。
まずセパレーター業界の事例。中国系のセパレーター企業の戦略について、先ほどの「見えない需要への投資」ということで、EV電池の技術進化の先を見据えてセパレーター事業はピークアウトすると見て、例えばアルミフィルムという新しい商材への先行投資を既に実施している。また、「見えない場所への投資」という観点では、生産拠点は中国国内の雲南省に集約し、ASEANを市場として捉えて、輸出していくモデルをとっている。これは東南アジアからは見えない動き。また、「見えないパートナーへの投資」という観点では、自社自体は製造に特化をしていくが、ヨーロッパ、日本、韓国の原材料、機械、技術のトップメーカーと提携をしていく方針をとっているのがユニーク。そして、その過程の中で工場の生産キャパシティを先に抑えて追随できなくしてしまうという戦い方がポイントになっている。
続いてセメント業界。「見えない需要への投資」では、工場を作っていく段階でごみ焼却やCO2の排出抑制など、後で環境規制が強化されたときに対応しやすいことも考慮に入れて投資している。「見えない場所への投資」では、東南アジア内でタイやインドネシアだけでなく、ベトナム、フィリピンやその他の国にも先行して投資を進めている。「見えないパートナーへの投資」の面では、技術面で日系や欧州メーカーとの技術提携を加速して勝ち筋を探っている。
最後に、両業界のコストの観点でも見ていくと、両産業について、日系企業と中国系企業で大きな生産コストの差がある。セパレーターでは2〜3倍、セメントでは4〜5倍の価格差がある。こうしたコスト差があり、中国系企業のグローバルシェアが上がっている中で、いかに日本勢が戦っていくのかをファクトベースで考えていかないといけない。

厳しい状況ではあるが、日本の産業が東南アジア、そして世界で勝っていくために、ヒントとして、日本企業の事業環境認識に対するズレがある可能性を認識してみることがあるのではないか。
1つ目のズレは東南アジアを生産拠点とのみ考えている傾向がないかという点。中国や欧米は、市場が豊かになってきて、都市の購買力向上を魅力と捉えている。
2つ目は、品質、技術が良ければ勝てるという点。技術だけではなく顧客や生産基盤を抑えることの重要性が認識できているか。
3つ目は、技術を守って価値を維持しようと考えすぎ、技術がいずれ陳腐化する点を見落としていないか。
4つ目は、組み方で日系連合でいくのか、グローバルのトップと組むのかという点。
最後には、長期目線でのパートナー関係構築を優先するか、事業やディール単位で経済合理性の追求を優先するかという点。
こういった点について、日本がどこを狙って戦うべきなのかは議論のポイントになると考えている。

【パネルディスカッション】
Summary Detail Day 2 - 1

<1st トピック:China ASEANの関係の更なる深まりについて>

●小柴

  • ー 「チャイナ・アセアンの衝撃」の方向がさらに加速しているということがよく分かった。
  • ー 製造業の立場では、ASEANは一つに括れないという印象。安全保障観点で見ていくと、中国と国境を接しているのか、海洋の問題があるのか、国の政治状態がどうかなど、状況は国ごとに異なる。なので、一つ一つのその国を見ながら、色々な経営判断をやってきた。
  • ー JSRという企業の特徴もあるが、大きなマスで勝負する市場はなかなか中国企業と戦えないので、ある程度尖って、またその世代ごとにプロダクトが変わっていくようなところで戦ってきた。
  • ー 実際、特殊な低燃費用の合成ゴムの進出先を検討した際、シンガポール、タイ、中国などを候補に検討した。ASEANに拠点を持って、ローカルの市場と中国市場を狙うことにし、シンガポールの化学産業は将来厳しいと考えて最終的にタイに決めた。他社は皆、シンガポールに行ったが、シンガポールはやはり厳しくなってきており、タイにして本当に良かったと思っている。
  • ー 邉見さん話を聞き、プロダクト・製品によってASEANの見方が変わってくる印象を改めて抱いた。

●神保 謙(慶應義塾大学総合政策学部 教授)

  • ー 私の専門は国際政治学なので、地経学・地政学の観点からASEANをどのように見るかという話をする。
  • ー 小柴会長から、長期循環論の中で今の時代をどう捉えるかという話があった。今のASEANはマクロ経済で見ても、国際政治学から見ても、少しずつ定義を変えて見なければいけない相手。
  • ー 例えば名目GDPで見て、2005年にASEANは1兆ドルだったが現在3兆ドル超で、2030年には6兆ドルを超える見込み。日本のGDPが今5兆5000億ドルで、6兆ドルぐらいに増えるとしても、日本とASEANの経済規模が横一線に並ぼうとしている。場合によってはASEANがさらに追い抜いていく状況にある。
  • ー まさに邉見さんが言ったように、レガシーである生産拠点としてのASEANから、市場として、そして新しいパターンの投資先としてのASEANをどう開拓していくのかという、時代性の目線が大事と感じた。
  • ー 安全保障・軍事の世界で見ると、かつてはASEAN全部足し合わせても日本の防衛費の3分の1にすぎなかったが2030年にはASEAN全体の国防費が800億ドルで、10兆円クラスになる見込み。日本もこれから防衛費を拡大するが現在5兆円代の後半。ASEANは徐々に戦略的な自立性を獲得し、力強い地域へ変貌していっている。日本が能力構築をしてあげる世界から、対等なパートナーとして、戦略観をどれだけ共有できるかという目線で、ASEANと付き合っていかなければいけない。米中の戦略的競争の中でASEANがいかに選択の自由を獲得していくかを日本が支援する目線が重要になってくる。
  • ー 最近バイデン大統領が、インド太平洋の新しい経済枠組みIPEFというのを立ち上げた。ビジネス界からは評判が悪かったが、発足時に13か国の参加が獲得できて、ASEANの多くの国が参加をした点にヒントがあると感じる。その背景には、アメリカ議会の監視リストから抜け出したい、アメリカが見直しているサプライチェーンの供給ルートに乗りたいといった意図や、中国・台湾問題などセンシティブな問題を棚上げして緩やかな参加枠組みにしたことが影響したと見ている。アメリカもASEAN各国の複雑な事情とビジネス環境に配慮して枠組みを作らなければ、その地域の枠組みに入り込むことができないということ。
  • ー このディテールの中でビジネスをどう拡大していくのかということをデフォルトでも作り、これが今、中国とASEANそして日本とASEANで起こっていることだと示して、制度に反映されていく仕組みを作ることが重要と感じた。

<2nd トピック:日本企業の取るべき方向性、ASEANからの期待>

●神保

  • ー 米中関係の戦略的な対立は、今後もおそらく継続していく。日本企業の多くは北米市場と中国市場の両方注力し、深く関わっているが、これがASEANからどう見えるかを、アイデンティティとして確立するということが重要。
  • ー 2つ目に、とは言っても、経済安全保障の議論、そしてサプライチェンの見直しが進んでくる中で、多くの日本企業はセンシティブな形で、今後の資本市場や技術提携を考えざるを得ないと感じている。今バイデン政権が進めているサプライチェーンの見直しは、半導体とバッテリーと医薬品とレアアースの4分野だが、これは今後徐々に拡大していく。例えば中国のスタートアップや、技術・データを持っている企業と今後提携をしたいという時に、もしかするとこの企業が1年後にアメリカの商務省のエンティティリストにかかってしまうかもしれないと言った新たなリスクが東南アジアの市場にも及ぶ可能性がある。
  • ー その時に、日本の経済産業省とアメリカのUSTRや商務省がやっているような政策とビジネスの対話を通じて、どのような規制が行われようとしているのか、こうしたスタンダードをビジネス界と政府の間での対話を深めていくということが重要。日米では制度が徐々に出来上がっているが、これを東南アジアの枠組みにも拡大して、経済に対するリテラシーをあげていくことは、ビジネスを活発化させていくために必要と感じている。

●小柴

  • ー 経済安全保障という時代では、企業は勝手に企業活動を続ければいいわけではない。産業界と政府との対話が、本当に重要なところにきていて、今までとは違う時代にきていると感じる。
  • ー 米中とASEANとの関係でいうと、日本は本当に良い位置にあると思う。RCEP、CPTPP、IPEF、QUADと様々な枠組みに関わっている。米中欧という三大経済圏に挟まれている中、日本は多国間連携をつなぎとめる杭として、非常に重要な位置にある。
  • ー 日本がASEANに何が貢献できるかと言うと、やはり先端技術。これが国力に直結する時代になってきている。日本が先端技術のイノベーションのハブになって、先端技術でASEANを引っ張るという試みは非常に良い。先端技術だけでは意味がなく、社会実装されて初めて本当のイノベーションになり、社会変革が起こる。日本は20世紀の公共財としては非常に良いものがある。ここに新しい21世紀の公共財として、具体的には、次世代計算基盤と高速通信が社会基盤になると考えている。
  • ー 20世紀の素晴らしい社会インフラの上に21世紀のインフラを立ち上げて、そこにASEAN企業が参加できるようにし、日本の企業が主体となってイノベーションを牽引するのが重要になってくる。日本のアカデミアと産業、それを支える官の政策、これを一体化すれば非常にASEANの中で良い貢献ができると思う。

●邉見

  • ー ビジネスの世界でも政府でも、国対国のチャネルと、超国家的な国連のような国際機関との関係で色んなものが決まっていく。他方でお二人の話では、グローバルな超国家的な国際機関と国とをつなぐいくつかの連携の枠組みの重要性が指摘されたと感じた。この地域間連携、という視点は通商産業政策や企業においてもなかなか出てこない視点。China ASEANというのも考えてみれば中国という国家と東南アジアという地域経済圏、これを結んだ大中華という視点で結ぶ新しいこの括り方を提供しているが、こういった視点が大事になってきている。
  • ー 他方で、ビジネスの観点では、ASEANの中での国ごとの違いも大きいが、同じ国の中でも都市部と地方で凄まじい経済格差がある。経済のエコシステムを作ろうにも、技術者の水準、所得、市場という単位で見ても4、5倍ぐらい差はあるのが現実としてあり、投資という観点での秩序も必要になってくると思う。
  • ー こういった背景を踏まえて3つ重要な視点がある。
  • ー 1つは相手の立場に立ってものを見るということ。日本とASEANとの関係というのは、日本の言い分だけで決まらない。東南アジアから見た時にどういう言い分なのか。アメリカと中国との関係においても、相対的な力関係によって日本というものが決まるということを、我々自身が理解をしなければいけない。
  • ー 相対化する上で、それぞれをよく見て比較するということが2点目の重要なポイント。
  • ー 3つ目は相対化するにあたって、相手が出している公開資料を丹念に読むこと。かなり丁寧に対外的な経済政策、経済外交の資料を中央政府のみならず地方政府も公開している。公開されている情報の中からロジカルにものを捉えるという訓練は、実は簡単なようで、難しい。手間がかかるけれども、ただ確実なステップの一つである。
  • ー こういった観点で見ていくと、日本が発揮できるパワーは超大国ではないが、ミドルパワーの中では大きいかもしれない。東南アジアの各国と組んでいくとミドルパワーアライアンスということになり、その時に日本がどんな価値を提供できるのかは、相対的なものによって決まっていく。ジェネラルではなくて、キラリと光るスペシャリティを我が国が東南アジアおよびアジア太平洋の諸国に示していけるかがこれからの希望であり、チャレンジであると考えている。

<3rd トピック:日本とASEANとのイノベーションハブ>

●小柴

  • ー 経済同友会の2018年のレポートで、2020年代の中頃に本当に根本的な技術革新が起こるということを言ってきた。具体的には量子コンピューターの実用化で、先端の半導体と組み合わさることによって、今では計算ができないような問題ができるようになる。
  • ー そうすると、いろんな社会問題、例えばカーボンニュートラルや完全な循環型社会の実現などに手が届くようになってくる。カーボンニュートラルは今の技術の延長では難しく、非連続な技術を生み出さなきゃいけない。
  • ー 私がずっと提案しているのが、日本の持つバイオロジーの技術を物作りいかしていくこと。バイオインフォマティクスというテクノロジーを磨き上げていく必要があるが、これがまさに量子コンピューターで大きく進歩できる。こういう技術開発をして、バイオマスが非常に豊富なASEANといっしょになって、サプライチェーンを新しく作るとか、それによって過度に化石燃料に依存しない時代を作るとかできることがある。
  • ー もう一つは高速通信。いろんなデータがセンサーでどんどん集まってくる。大雨の時に災害がどのように広がるかは、今でもスーパーコンピューターでそこそこのシュミレーションはできるが時間がかかる。新しい計算基盤とリアルタイムに集まってくる高速通信で、5分、10分で災害が予見できるようになる。
  • ー こういうテストベッドを政府が提供し、またここでいろんな企業が寄り集まってイノベーションを起こしていくと、こんなイメージを考えている。

<4th トピック:タイ在住視点での経験>

●神保

  • ー 以前、タイのタマサート大学に客員教授として赴任して、シンガポールにも数か月行っていた。
  • ー タイはクーデター後の軍事政権で、アメリカは国内法によって武器の売却などができず中国がそこを埋め合わせるように入っていた。実際にいろいろインタビューをすると、タイの国防のプライオリティに合わせてアメリカから買う武器もあれば、中国から買う武器もあり、組み合わせるのが戦略という言い方をしていたのが非常に特徴的だった。その戦略のプライオリティによって相手を柔軟に選んでいくのがタイの大きな視点と感じた。
  • ー もう1つ、日中の第三国市場協力の実践の場としてのタイというテーマもあった。日本と中国の経済界をより結び付けて、一帯一路と自由で開かれたインド太平洋という構想でオーバーラップする部分はウィンウィンの関係を広げていこうという発想日本と中国が協力すると東南アジアの企業や政府は、どっちを選ぶという関係にならないので安心できるが、聞いてみると、うまくいかないことが分かった。
  • ー 現実に日中が協力を本当にしていけるかを見ると、日本企業は投資の採算性や回収率という企業の理屈に基づいてプロジェクトを選定するのに対して、中国は採算がとれなくてもこのインフラプロジェクトは取っていくということをタイの企業と組んで進めていくという、いわゆるビジネス方式の違いというものが、この共同プロジェクトを推進する上で非常に大きな問題になっていたなと感じた。
  • ー 考えの異なる国々が組んで一緒にインフラプロジェクトを進める、デジタル経済を推進するときに乗り越えなければいけないハードルは依然として大きいと感じている。プロジェクトを一つ一つ重ねた上でアジアを作っていくということしか方策はないのではないかというのが、私の経験。

<5th トピック:クロージング>

●邉見

  • ー 今日のプレゼンテーションの中の一つのお題である新しい経済圏の括り直しという概念が重要。国や国際機関に対する硬直的なものの見方や、それに伴う企業内の組織などについて、再編という単位を常に意識することの重要性がある。
  • ー もう一つは、その中のセンターピンをどう探すかという観点。都市についていえば日本の強みは、大きなスマートシティではなく、タウンマネジメントや鉄道システムなど細かいところ長けている。この集合体で攻めていく、リアルニーズに対していかに展開していくかというフォーメーションパッケージが大事になる。
  • ー また、基本になるような概念だが、人間中心の社会をどう捉えるのか。日本が提供できる価値は、人間を大事にする社会であり、これは一つの武器であると思う。新たな時代に入っていく中でそういった根本があり、他方で、フレームワークは現実志向で変えていきながら生き残っていくというところを謙虚にやれるかがポイントと改めて感じた。

●神保

  • ー ASEANを総体として見ると徐々にGDP規模で日本を追い越し、世界経済の中でのウェイトが増していくというお話を冒頭にした。同時にASEANの中でインドネシアはすでにG20のメンバーで、徐々にグローバルな観点での責任が、ASEANの中から育っていくということがすごく大事な視点と思う。
  • ー ASEANが世界経済の中でウェイトを増していく中で、自由やルールに基づく国際市場、そして人間の尊重といった、こういった価値をより大事にしていく社会として成長していくという期待を込めて、その兆しが見られたら、日本は全力で応援していくべき。日本からこれを達成しなさいと言うのではなく、ASEAN自身がまとめたことに対して良い兆しを見つけたら、それを全力で応援するという仕組みが、日ASEAN関係の進め方としては最もプロダクティブになるだろう。

●小柴

  • ー 繰り返すようだが、やはり中米欧という三大経済圏に挟まれたASEANと日本というのは意識せざるをえない。自国、自地域を中心に、非常に利己的な形に、政治がなっていることを理解することが重要。今のような状態が10年ぐらい続くと見ている。
  • ー そうした中で経営者として私がいろんなところで言うことは、まず今重要なことはバランスシートを整えて、なるべく経営オプションを増やして、そして特にASEANの国とかに付き合う戦略に関しては、できるだけ決断をしないこと。
  • ー 脱ロシアとか色々言われていて、制限するのはかっこいいが、このよくわからない時代が続くという中では、経営オプションを増やして決断を後ろに伸ばす時期だろう。
  • ー もう一つ言えることは、”Conventional wisdom is always wrong.”ということ。大体において今考えていることの延長は違うということ。必ず上向く時代、2020年後半から、私は本当に科学技術によって新しい世界が出てくると思うので、その時代にいつも備えておくことが企業経営として非常に重要と考えている。