日ASEANビジネスウィーク2021

ASEAN注目3分野のスタートアップ
<DXプラットフォーム特別企画>

2021年5月28日(金)13:00~15:00(日本時間)

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概要

 本セッションでは、東南アジアを代表するベンチャーキャピタルやリテール・小売、モビリティ、ヘルスケアの3分野の注目スタートアップが登壇し、日本企業とASEANスタートアップの連携の重要性と可能性について議論がなされた。

 開会挨拶で、鈴木ジェトロジャカルタ事務所長は、スタートアップは変化の激しいASEANビジネスの主役であり、ASEANのビジネスプレーヤーと日本企業との連携は、日本企業から技術やビジネスモデルを提供するだけではなく、日本企業に対して東南アジアの大きな市場や将来性、Win-Winビジネスの可能性を提供していると指摘した。両国の企業が対等なパートナーとして向かい合ってほしいという期待を述べ、連携・協業のためにジェトロが提供しているプラットフォームである「J-Bridge」と「Invest Japan」を紹介した。

 続いてVertex Ventures Southeast Asia & IndiaのManaging Partner、Ben Mathias氏が、デジタル・イノベーションが進むASEANのスタートアップを取巻く環境及び各分野の将来展望について基調講演を行った。
 E-commerce分野では、アマゾンのような伝統的なE-commerceビジネスモデルのほか、インフルエンサーによるソーシャルコマースやライブコマースも注目される。B2B分野では、デジタル化進展のもと、垂直統合のプラットフォームやサプライチェーンロジスティクスサービスは、今後更に成長していくと予測される。金融分野では、キャッシュレス化や非接触決済ニーズの高まりに伴い、マイクロ金融プラットフォーム、デジタルの小口保険が注目される。B2B SaaS(Software-as-a-Service)分野では、データインフラ管理や中小企業向けSaaSに関連するビジネスチャンスが期待される。ヘルステック分野で、AIなどの先端技術を駆使したビジネスは更に成長していくと予測される。最後に、デジタルエンターテイメントの分野ではARやVR分野で面白いビジネスチャンスがありうると語った。

 その後のパネルディスカッションでは、リテール・小売、モビリティ、ヘルスケアの3分野から、2社ずつ計6社のスタートアップが登壇、各社のビジネスモデルを紹介するとともに、ASEANの社会課題解決に向けて、業務提携から出資まで幅広い形での日本企業とのあらゆる連携を大歓迎しているとアピールした。
 リテール・小売分野からはSOCASHとWahyooの2社が登壇した。SOCASHは、シンガポールの金融テクノロジー会社であり、小売店を銀行サービスの提供できる「Virtual ATM」に変えるプラットフォームソリューションを提供している。Wahyooは、インドネシアで業務プロセスや財務管理等側面で中小飲食店のデジタル化をサポートしている。
 モビリティ分野からはSWAT MobilityとPhenikaaXの2社が登壇した。SWAT Mobilityは、シンガポールのスタートアップで、精度の高いアルゴリズムを強みに、ライドシェアサービスやオンデマンドバスを世界7ヵ国でビジネス展開している。PhenikaaXは、乗用車・フォークリフト・トラクターを含めた自走車両やロボット技術を中心にビジネスを展開しているベトナムのスタートアップである。
 最後に、ヘルスケア分野からeDoctorとHealthMetricsの2社が登壇した。eDoctorは、ベトナムの医療市場にフォーカスしたデジタル技術を駆使したスタートアップである。HealthMetricsは、マレーシアのヘルスフィンテックスタートアップとして、企業の従業員健康管理・健保予算高度化等をサポートしている。

開会挨拶

鈴木 啓之(日本貿易振興機構 ジャカルタ事務所)

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 インドネシアでは、6社のユニコーンがひしめき、多くのスタートアップが勃興している。その他のASEAN各国においても、多くの社会課題を抱えおり、それを若い人材のアイデアとデジタル技術の力を使って解決しようと、スタートアップが数多く生み出されている。
 スタートアップに限らず、ASEANのビジネスプレーヤーは、日本企業との連携を求めている。彼らは日本企業が直面するリスク、すなわち少子高齢化や後継者不足のため、国内市場がじり貧に陥るリスク、貴重な技術を伝承できなくなるリスクも知っており、日本企業から技術やビジネスモデルを期待するだけでなく、日本企業に対して東南アジアの大きな市場や将来性、Win-Winビジネスの可能性を提供している。
 日本企業とASEAN企業の関係性は、いつまでも親子としてではなく、対等なパートナーとして向かい合うべきである。ASEANスタートアップと日本企業の協業は、次の世代の日本企業の新たなビジネスの絵姿を見出していく中で、大きな、重要な手掛かりになるものと考えている。
 J-Bridgeは、ASEANスタートアップと日本企業の連携・協業をジェトロがサポートする仕組みとして立ち上げた。この連携・協業のためのビジネスプラットフォームを通して、日本企業は、スタートアップ企業とのミーティングアレンジ、企業情報やマーケット情報の入手、個別のコンサルテーションなどを受けることができる。また、海外企業はJ-Bridgeのサービスや日本への進出支援である「Invest Japan」のサービスを受けることもできるので、ぜひ活用していただきたい。

基調講演

Ben Mathias(Vertex Ventures Southeast Asia & India Managing Partner)

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 当社は、シンガポール政府の投資会社テマセク傘下のグローバルベンチャーキャピタルである。
 ASEANとインド地域は、人口20億人以上を抱え、その内若年層人口が約10億人程度であり、非常に大きなポテンシャルがある。当社は同地域のEarly-stage 投資を中心に、消費者インターネット・フィンテック等の幅広い分野で投資活動を行っている。
 ASEANでは、特にシンガポール・インドネシアのベンチャーキャピタル投資が盛んであり、ベトナム・タイとフィリピンも近年成長している。
 E-commerce 2.0は、インターネットユーザー増加を背景に大きな話題になっており、アマゾンのような伝統的なE-commerceビジネスモデルのほか、インフルエンサーによるソーシャルコマースやライブコマースも注目されるようになっている。
 B2B分野では、企業の購買活動のオンライン比率が高まっており、デジタル化進展のもと、垂直統合のB2Bプラットフォームやサプライチェーンロジスティクスサービスは、今後更に成長していくと予測される。
 デジタルファイナンシャルサービス分野では、キャッシュレス化や無接触決済に対するニーズが高まっているとともに、マイクロ金融プラットフォームやデジタル小口保険が今後注目される分野になる。
 B2B SaaS(Software-as-a-Service)分野のプレイヤーは、東南アジアの豊富なIT人口を背景に、2015年の140社から今では約3,000社まで増えており、大きな市場になっている。今後は、データインフラ管理や中小企業向けSaaSに関連するビジネスチャンスが期待される。
 ヘルステックについては、東南アジアの医療キャパシティにはまだまだ大きな成長余地があり、域内各国のヘルスケア支出はGDP成長率を上回る勢いで成長してきた。今後は、AIなどの先端技術駆使したヘルステックビジネスが更に成長していくと予測される。
 デジタルエンターテイメントは、COVID-19対策のロックダウンを背景に過去一年間で大幅に伸びた。今後はARやVR分野で面白いチャンスが生まれていくと見ている。

パネルディスカッション① リテール・小売分野

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各社事業紹介

矢嶋 秀樹(SOCASH SOFTWARE JAPAN合同会社 統括部長/事業開発兼協業推進担当)

 当社は、シンガポールの金融テクノロジー会社であり、主にASEAN各国で事業展開している。
 銀行サービスへのニーズが高まる中、従来型の銀行支店やATMのネットワークでは、その需要に追い付かなくなっている。当社は、小売店等のネットワークを活用し、次世代金融サービスのエコシステムを構築することが必要と考えている。
 当社は、街角にある小売店を、銀行サービスを提供できる「Virtual ATM」に変えることで、決済・送金サービス、デジタルキャッシュサービス並びに銀行業務のラストワンマイルサービスが統合されたプラットフォームを構築している。
 当社のプラットフォームを利用することで、金融機関は拡張性と経済合理性に優れたネットワークや取引手数料などの新収入源を獲得できると同時に、小売事業者も収益や売上金運用管理コスト低減等のメリットを受けられる。
 今後は、ASEAN市場での更なる事業拡大、及び日本市場への参入を進めていきたい。

Peter Shearer(Wahyoo CEO & Founder)

 当社は、インドネシアで業務プロセスや財務管理等の面で飲食店のデジタル化をサポートしている。この分野のマーケットは巨大で未開発である。インドネシアで350万存在する中小飲食店のデジタル化比率は、まだ18%に留まっている。
 当社は統合されたエコシステムを構築し、自社開発のアプリを中小飲食店に提供することで、オペレーション面での原材料仕入れや品質向上、財務面での資金調達等、彼らの課題を解決している。また、当社は直接農家と契約しているため、小規模の飲食店でも原材料の産地直送による調達が実現可能となっている。
 計1万6千店舗がすでに当社のプラットフォームに登録しており、インドネシアで最大級の中小飲食店コミュニティとなっている。現在ジャカルタ等の4都市で展開しているが、今後更に多くの都市に展開していきたい。

日本企業との協業に対する期待

  • 矢嶋氏(SOCASH SOFTWARE JAPAN)

  • 2つの切口で、日本企業とのパートナーシップを開拓する予定である。1)銀行については、彼らのデジタル戦略・ネットワーク戦略をヒアリングした上で一緒に事業拡大を進めていきたい。2)小売店については、ネットワーク拠点として業務面での提携を検討していきたい。

  • Peter Shearer氏(Wahyoo)

  • 知見やノウハウを共有して欲しい。特に、インドネシアに進出している日系物流会社とディスカッションしたい。

    当社事業の中で、中小飲食店のネットワークが非常に重要なリソースであり、色々な可能性が潜んでいる。投資を含めて、あらゆる形の提携を歓迎している。

パネルディスカッション② モビリティ

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各社事業紹介

末廣 将志(SWAT Mobility Japan㈱ 代表取締役)

 当社は、2015年にシンガポールで設立したモビリティスタートアップであり、ライドシェアサービスやオンデマンドバスを世界7ヵ国で展開している。当社は、ダイナミック・ルーティング・アルゴリズムの開発、配⾞アプリへの実装、配⾞アプリシステムの開発・導⼊等を通じて、バス台数削減・⾛⾏距離削減によるコスト削減、バスの乗降箇所増加による利便性向上等に貢献している。
 オンデマンド・ライドシェアリング交通の市場は急速に発展しており、これまで関連プロジェクトはヨーロッパと北⽶に集中していたが、近年、アジア、特に日本で急速に伸びてきている。
 当社も、2020年2月に日本に進出し、9地域で実証実験もしくはサービス実装をしている。当社技術の特徴は、アルゴリズムの精度が非常に高い点である。オンデマンドバス機能を測るベンチマークで最も良い成績を収めており、台数削減の能⼒においては右に出るものはいないと考えている。また、当社のアプリケーションは、乗客・運転⼿の双⽅に配慮されたユーザーインターフェイスに加え、管理者による運⾏管理や移動実績の分析も可能である。
 ASEAN、⽇本、またはその他の地域において、当社のオンデマンド送迎サービス等の事業拡大を目指しており、協業パートナーを探索している。

Le Anh Son(PhenikaaX CEO)

 当社は、2020年に大学からのスピンオフとして設立したスタートアップであり、乗用車・フォークリフト・トラクターを含めた自走車両やロボット技術が主な事業内容である。
 自動運転技術は、テスラやウーバーも注力している分野であり、当社の自動運転技術は、レベル4、つまり高度運転自動化ステージの技術である。現在はローカリゼーション等の課題を中心に取り組んでいる。現在、当社の代表的なリチウムバッテリー駆動の自走車は、100kmの走行距離をカバーでき、最高速度40km/h、最大積載量600kgを実現している。今後の普及に向け、コストを最適化していきたいと考えている。
 人類の未来を変える重要な技術であるため、ぜひ色々な分野でのコラボレーションを検討していただきたい。

日本企業との協業に対する期待

  • 末廣氏(SWAT Mobility Japan㈱)

  • モビリティは、人々の足として人間の基本的権利であると考えている。当社の技術は、世界各国の様々な場面で適用できる。導入シミュレーション等も行うことも可能なので、気軽に相談していただきたい。

  • Le Anh Son氏(PhenikaaX)

  • 日本企業と連携は大歓迎である。特に、スマートモビリティやマッピング等の分野で提携したい。

    また、ロボットは非常に有望な分野である。毎年、大量の日本製ロボットがベトナムに輸入されているが、これらのロボットのベトナム現地生産や関連分野への投資を期待している。

パネルディスカッション③ ヘルスケア

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各社事業紹介

Vu Thai HA(eDoctor COO & CPO)

 当社は、2014年に創業し、ベトナムのローカルマーケットにフォーカスしてヘルスケア事業を展開してきた。
 ベトナムの国内医療市場は、これから大きく伸びると予測され、ASEAN他国と比較してもポテンシャルが高い。政府も、医療関連の法律を整備しており、遠隔医療・在宅医療等を促進する動きが明確である。こうした背景の下、当社はビジネスを更に加速し、エンドユーザーにサービスを届けたい。
 現在、ベトナム医療市場の課題としては、患者の知識不足、医療資源不足、混雑等による診療体験の質の低下、そして、カルテの情報管理が困難であること等が挙げられる。そこで、当社は「バーチャル医療アシスタント」というソリューションを提案している。
 今後は、消費者ヘルスケア、オンラインヘルスストア、オンライン医療サービス、オフラインヘルスハブ、及び医療広告等の分野で、サービスラインを拡充していく予定である。

Alvin Yuan(HealthMetrics CEO)

 当社は、マレーシアに拠点を置くヘルス・フィンテック企業であり、企業の従業員健康管理・健保予算高度化等をサポートしている。
 多くの企業で、従業員の健康管理上の不十分なデータ活用は、人件費上昇や従業員の満足度低下を招いてしまう。従来の仕組みでは、ブローカーや保険会社等、第三者業務委託機関が複数存在することが、企業の人事部門や従業員に混乱をもたらしており、極めて非効率である。そこで、当社は、すべての関係者を繋ぐことで、情報を一覧化・一元化して管理するソリューションを提案している。

日本企業との協業に対する期待

  • Vu Thai HA氏(eDoctor)

  • 資金、IoTソリューション、医療・医薬・保険の知見を持っている会社と協業していきたい。

  • Alvin Yuan氏(HealthMetrics)

  • 現在、当社は4,000以上の病院等からなるネットワークを持っており、1,000社以上の企業と契約し、20万人以上の従業員にサービスを提供している。

    こうした基盤に基づくビジネスパートナーシップの可能性や今後の事業成長に向けた投資についてぜひ検討していただきたい。

問い合わせ先

日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)事務局 鈴木

E-mail:disg@ameicc.org