中小企業の更なるASEAN展開
2021年5月25日(火)14:00~16:00(日本時間)
概要
本セッションでは、中小企業のASEAN展開の更なる促進に向け、2人の専門家から同地域のビジネス環境、事業機会、活用できる支援策などについての基調講演が行われた後、実際にASEANでビジネス展開をしている中小企業5社を交えたパネルディスカッションが行われた。
冒頭、日本商工会議所から、初日の三村会頭の挨拶に続けて、理事・国際部長の西谷氏が中小企業の海外展開支援を進める立場より挨拶。西谷氏からは、東南アジアを日本の中小企業にとっての「成長フロンティア」と捉えており、本セッションを通じて中小企業にとっての事業展望や可能性を探っていきたいというメッセージが発信された。
続いて、桜美林大学准教授の岩垂氏と経営共創基盤(IGPI)シンガポールの坂田氏の2名がASEAN同地域のビジネス環境、事業機会、活用できる支援策などについて、基調講演を行った。
岩垂氏からは、各国の成長・発展に役立つ分野、社会課題解決に資する技術などでは、中小企業でもビジネスチャンスがあり、進出の際の日本政府・各国政府の支援策活用が推奨された。また、1)製造拠点だけでなく市場としてのASEAN、2)ITやイノベーションを支える人材供給、3)リアル(現実)のビジネスの課題解決に眠るチャンス、を意識すべきとのアドバイスがなされた。
坂田氏からは、増加する中間層向けサービスについて、ASEANでは品質のばらつきが大きい点にチャンスがあること、B2BのDXにはビジネス機会があることが指摘された。B2BのDXビジネス展開では、1)現場での地上戦でいかに地道にデータを集め、デジタル技術による空中戦を戦うかという「戦略性」、2)そのために必要な現地ネットワーク構築や技術・知見のインプットなどの「実効性」、3)経営の現地化などによる「継続性」、が重要とのアドバイスがなされた。
続くパネルディスカッションでは、登壇した中小企業各社から、企業概要及びASEANでの事業内容を紹介した上で、4つの論点を議論。まず、ASEAN進出のきっかけについては、現地視察や展示会への参加、輸出販売増加から現法設立に至ったエピソードなどが紹介された。続いて、支援スキームの議論では、ジェトロ、JICAや自治体のF/S、実証、専門家派遣支援の活用に加え、進出先の現地政府から税制優遇等の支援を受けた事例が共有された。3点目のASEANビジネス展開の時間軸については、長期的な視点を持つことで、業績が苦しい時期も乗り越えて売上拡大を実現したという力強いエピソードや、日本での実績・経験をベースに長期的な視野で臨むことの重要性が指摘された。4点目としては人材面を議論、各社より現地人材の活用・育成の重要性が語られ、現地法人のトップの育成への意欲や育成に成功した事例が共有された。
最後に、IGPIシンガポール坂田氏から、日本の中小企業が強い使命感とコミットメントを持って東南アジアでビジネスを展開していることに感銘を受けた旨をコメント。さらに、ASEANから日本企業に対する期待として、ESGのうち従来のG(ガバナンス)だけでなく、E(環境)やS(社会)など具体的な産業改革へと変化しているという見解が示された。
また、モデレーターの岩垂氏からは、強い技術力と現場力を持っていることに感銘を受けた旨をコメント。コロナ後のASEANの市場・ポテンシャルに新たなビジネスチャンスが生まれることが、今日の議論で強く感じられたのではないかという言葉で締めくくった。
開会挨拶
西谷 和雄(日本商工会議所 理事・国際部長)
現在日本には359万社の企業があるがそのうちのほとんどの358万社が中小企業である。そして、日本では少子高齢化が進行し、長期的な国内市場縮小は不可避の状況である。
一方、東南アジアは6.6億人の人口を抱え、若年層が多い人口ボーナスを謳歌しており、今後も高い経済成長が期待できる。これまで東南アジアには1万3千社の日本企業が進出し、幅広い事業展開を行っている。
日本商工会議所は東南アジアを我が国に多数存在する中小企業にとっての「成長フロンティア」と捉えており、本セッションを企画するに至った。そして、その東南アジアにおける事業機会や開拓していく上での方策に関する基調講演に桜美林大学の岩垂准教授とIGPIシンガポールの坂田CEOを講師としてお迎えし、さらに東南アジアで事業を展開している中小企業の方々の事業紹介や同地域の魅力について講師とのパネルディスカッションを通じて、日本企業、特に中小企業の東南アジアにおける今後の事業展望や可能性を探っていきたい。
基調講演① ポスト新型コロナ禍のASEANにおける事業機会
岩垂 好彦(桜美林大学 ビジネスマネジメント学群 准教授)
デジタル化、スマート化への取り組みを進めるASEAN諸国
ASEAN経済も新型コロナの影響を受けているが、産業構造改革を継続的に進めている。各国においては、2010年代後半から、「中進国の罠」を抜け出すべく、デジタル化、イノベーション、サステナビリティ、インクルーシブな成長などを推進しており、例えばタイでは「タイランド4.0」、インドネシアでは「Making Indonesia 4.0」といった政策を推進している。
地方・農村部が取り残されないよう包摂的な成長(Inclusive Growth)の実現が極めて重要となっている。都市部では、デジタル化は既にかなり進展しており、また、製造業におけるIoT導入や人材育成も進められ、地方の経済・産業の活性化への活用が期待されている。
中小企業の事業機会とASEAN展開への支援スキーム
対象国の成長・発展に役立つ分野であれば、中小企業でもビジネスチャンスがある。農業、食品加工、製造業、環境・まちづくり、データ・プラットフォームビジネス等、幅広い分野における社会課題解決に資するような、日本でもニーズのある技術、仕組みがASEANでも求められており、そういった分野でも中小企業のビジネスチャンスは広がっている。
また、進出にあたっては、経済産業省、ジェトロ、外務省、JICA等の日本政府のネットワークや支援策の活用が有効。各国現地政府が提供している支援策の活用も検討すべき。
新たな時代に持つべきASEANビジネスの視座
第一に、ASEANは低賃金の加工組み立て・輸出拠点としてだけでなく、有望な市場と認識する必要がある。
第二に、製造業やITの人材育成、イノベーションへの取組も着実に進んでおり、高度なITビジネス、イノベーションを支えていることを理解する必要がある。
最後に、E-CommerceやITプラットフォームのビジネスが次々と生まれ、バーチャルの世界は進展しているが、リアル(現実)のビジネスは課題山積で有るという点に着目することが有効である。そこに各国企業も政府も、日本の中小企業の経験・技術の導入に期待している。
基調講演② 日本企業の強みを生かしたASEANでのDX
坂田 幸樹(㈱IGPI パートナー、IGPIシンガポール 取締役CEO)
ASEANでは、都市化とそれに伴う経済成長により、中間層が拡大し、経済の中心的役割を担っている。一方で、中間層向けサービスの供給は不足しており、品質のバラつきが多いのがASEAN市場の特徴と言える。日本企業はASEANで高価格帯のサービスを提供しがちであるが、この中間層向けサービス品質のバラつきを安定化させていくことこそ、日本企業が得意とする領域であり、ビジネスチャンスが存在すると考えている。
ASEANにおけるDXでの戦い方も重要。2010年初頭から中盤にかけてはこれまで誰も持っていなかった消費者データのビッグデータ化が主戦場でその中で抜け出したのがGrabやGojek。このB2C領域は既に勝負が決まっているが、B2Bの領域はこれからであり、ここにASEANのDXでの事業機会がある。GrabやGojekがDXを活用した空中戦を制した要因は、ドライバーのロイヤリティ向上・品質確保や代金回収の仕組み構築など、リアルな現場の地上戦で様々な工夫を行ったことがポイントだった。
今後の主戦場となるB2B領域では、本質的な課題の理解に立脚した現場改善などの地道な地上戦によってデータを集めた上で、デジタル技術による空中戦で戦うという戦略性がポイント。
そのためには、現地のネットワーク構築が重要で、ここができていない日本企業が多い。幅広い業界のスタートアップや現地企業の技術や知見を自社の新規事業に取り入れることで、エコシステムを形成し、実効性を高める必要がある。
そして、事業の継続性をいかに確保するかも重要。日本人責任者が2-3年で入れ替わる形ではなく、社内の現地人材育成や現地のパートナーとの資本提携などを含め、経営の現地化も進めていくべき。
パネルディスカッション
各登壇者による企業紹介
辻 昭久 ツジコー㈱ 代表取締役
ツジコー㈱は滋賀県に本社を置く会社で、従前は照明器具の設計、生産および電子部品の加工検査を柱としていたが、10年かけて食品原料の開発・生産、農産物の受託加工に事業再構築中である。
食品原料の中で着目したのが、当時合成着色料しかなかった青色。2014年のJICA事業のラオス視察でバタフライピーの花に出会い、ツジコーではこの青色の天然着色料をバタフライピーの花から製造することに成功し、商品化した。このバタフライピーの栽培(有機農業)はラオスとタイで行っている。
同社は「世界を幸せの青色でいっぱいにしよう」をスローガンに、バタフライピーに関する世界的なリーディングカンパニーを目指している。
藤本 耕平 ㈱ディー・エム広告社 代表取締役社長
㈱ディー・エム広告社のDMはDirect Mail & Direct MarketingのDMであり、広告宣伝「物」を届けることに係る事業を展開している。具体的には発送代行、販売促進、海外支援の3つのサービスを提供している。
海外ではタイとベトナムに拠点を有しており、最初の海外進出であったタイは、ジェトロの支援を受けて進出準備を進めた上で、現地の大手財閥サハグループの役員と当社役員がSNS上で知り合いだったことがきっかけで、サハグループの倉庫の一部を借りて現地進出をスタートできた。
日本企業のASEANへの進出に際しての支援のみならず、タイ企業の日本進出についても支援を行っている。
同社は、「お客様の価値を高めるパートナー」を目指し、「物流・販売促進(SP)・海外」で最適化が出来る唯一の企業として日本・ASEANを代表する集団となることを目指している。
坪井 巖 ㈱トリム 代表取締役
㈱トリムは沖縄県に本社を置く会社で、ガラスビンリサイクル事業を展開している。同社では廃棄されたガラスビンを破砕、粉砕、焼成というプロセスで加工し、環境にやさしいスーパーソルというエコ資材を製造している。このスーパーソルは多孔質・優れた保水性・排水性・無機鉱物性・超軽量そして土に還元するというエコな特性を持っており、土木工事、農業・水産業等幅広い分野で活用されている。国内では全国組織であるガラス発泡資材事業協同組合を設立し、JIS制定に合致する品質管理を徹底し、公共事業に積極的に活用される商流を構築している。今後の有望な用途としては、水の浄化や雨水の貯留システム、また微税物と組み合わせた脱臭などに活用範囲を拡げていくことを考えている。
東南アジアを含む海外からの問合せも多くはいってきており、コロナ後にはより積極的に海外への情報発信および進出を図っていきたい。
山田 寛 ㈱ナベル 取締役 海外事業本部長
㈱ナベルは京都に本社を置く会社で、卵の選別包装装置の製造・販売を行っているメーカーである。1992年に海外向けにマレーシアに設備を初出荷したのがASEANとの関わりのスタート。2003年には同国に現地法人を設立、苦難の時代もあったが、現地の大手企業との取引も拡大し、海外売上比率も東南アジアを中心に3-4割にまで伸びている。2020年には経済産業省より、グローバルニッチトップ企業100選に選出された。
現地の商習慣や文化を踏まえた上で最適な経営判断をする、また社員を育てていくことをモットーとしており、現地子会社のトップは2007年から日本人ではなく、現地の人間が務めている。
「世界の卵をナベルの機械でパックしよう!』」というスローガンのもと、アジアに軸足を置きながら世界一を目指している。
伊藤 雅彦 ㈱FOMM 専務取締役 兼 Mobility事業本部長
㈱FOMMは神奈川県川崎市に本社を置き、小型電気自動車(EV)の企画・開発を行っている。
タイの子会社FOMM(Asia)では生産・販売を行っている。
設立のきっかけは東日本大震災に伴う津波被害を目の当たりにしたこと。水に浮いて、移動ができる超小型電気自動車の開発を決意し、2013年に会社を設立した。
3つのキーワード、則ち、1) Mobility Technology(市場の用途に適したモビリティの企画・開発を行う)、2) Mobility Service(小型モビリティおよび技術を活用したサービスの企画・開発を行う)、及び3) Micro-Fab(小型モビリティ製造に最適な生産システムを世界各地に提供する)に基づき事業を展開している。
タイに生産工場を設立し、タイ水害時の支援活動に同社の小型EVが実際に使われた実績もある。
パネルディスカッション・モデレーター岩垂准教授、コメンテーター坂田CEO
1st topic: ASEANに進出したきっかけ
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岩垂氏
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各社が大変ユニークな事業を展開されておられ、そういった技術やサービスがASEAN諸国から求められていることが良く分かった。一方でこのイベントを視聴いただいている企業様にはこれからASEANに進出を考えらえている方も多いと思うので、各社の進出のきっかけをお伺いしたい。
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辻氏(ツジコー)
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自社の着色料製造技術を活用できる植物が、JICA支援事業で訪問したラオスで偶然にも発見したことがきっかけ。
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藤本氏(ディー・エム広告社)
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特に先にタイに進出していた顧客(日本企業)の要請があったということではなく、タイ現地を視察に行った際にビジネスチャンスを感じた。
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なお、現地財閥サハグループのトップと自社役員がSNSで知り合いだったのは本当に偶然であるが、そこから自社の事業内容を丁寧に説明して提携、現地進出に繋げることができた。
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坪井氏(トリム)
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これまでタイやベトナムにて展示会を行ってきた。小規模な経済圏の中での廃棄物処理にスーパーソルを活用していきたい。
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山田氏(ナベル)
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現地代理店経由で輸出販売を当初は行っていたが、マレーシアでの売上が伸びたこと、当時円安であったことも追い風に現地法人の設立に至った。産業機械であり、現地でのアフターメンテナンスのニーズが高かったこともある。
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伊藤氏(FOMM)
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タイでは一般消費者向けにも販売しているが、販売価格を下げるためにもコストダウンは今後対応していく課題である。
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2nd topic: 日本及び現地政府支援スキームの活用
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岩垂氏
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各社様が活用された、日本および現地政府の支援スキームについて確認したい。
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辻氏(ツジコー)
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JICAの支援スキームである案件化調査、普及・実証・ビジネス化事業を活用した。
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藤本氏(ディー・エム広告社)
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ジェトロバンコクから専門家派遣の支援を受けた。
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坪井氏(トリム)
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JICAの案件化調査に加えて、沖縄県の海外展開補助金も活用した。
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山田氏(ナベル)
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マレーシア政府から先進的企業としてのパイオニアステータスという法人税優遇の適用を受け、延べ10年法人税が免除されていた。
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伊藤氏(FOMM)
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タイ現地政府から規格化や法人税優遇等の支援を受けた。
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3rd topic: ASEANビジネス展開で求められる長期的目線
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岩垂氏
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先行投資の回収は長期化するが不安はないか、どう見ておられるか?
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山田氏(ナベル)
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市場が伸び悩み、自社の売上面でも苦しい時期もあったが、現地財閥との取引が始まったことを受け、近年では売上を伸ばすことに成功した。長期的なスパンで取り組んでいくことが必要と考えている。
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坪井氏(トリム)
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今後、海外進出を行う上で, プラント事業は長期的視野で取り組む必要があり、日本国内での20年以上の実績をベースに、メンテナンスマニュアルに沿って工場稼働を行えば、運用の問題が生じることはなく、リモートを活用しつつ、現地とのコミュニケーションをうまくとることができれば、楽しみな展開が拡がるものと期待している。
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4th topic: 現地人材の活用、育成
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岩垂氏
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現地の人材確保や育成が重要だが、各社様の取組みを伺いたい。
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辻氏(ツジコー)
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早期にラオス、タイでの現地法人を設立したいと考えている。現地人材は植物栽培で活用していきたい。
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藤本氏(ディー・エム広告社)
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現地人トップを育成していきたいと考えている。
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坪井氏(トリム)
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タイのCPグループからも問合せを受けており、しっかりと売り先という出口を確保して現地進出を進めていきたい。
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山田氏(ナベル)
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マレーシア人のトップ就任は現地法人設立から4-5年で実現させた。マレーシアは多民族国家で、文化的背景が複雑なこともあり、現地人リーダーの育成は非常に重要と考えていた。
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伊藤氏(FOMM)
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自社で人材開発も進めていくが、自動車産業が発達しているタイでは人材も豊富である。
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総評
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坂田氏(IGPI)
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各社様が強い使命感と事業に対するコミットメントを持っておられて、そういった中で現地との財閥とか経営者との出会いが生まれているのだと良く分かった。
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コロナ前まではASEAN現地企業からESGで言うところのG、つまりガバナンス関連での照会が多かったが、コロナ後はEおよびS、すなわち環境、社会関連など、日本企業への期待するポイントが具体的な産業改革へと変化してきていると感じている。
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岩垂氏
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各社様のお話を伺って、皆様強い技術力と現場力を持っておられて感銘を受けるとともに、コロナ後のこのASEANには大きな市場とポテンシャルが控えている、そしてそこに新たなビジネスチャンスが生まれることが視聴者の皆様にも伝わったのではないかと思う。ありがとうございました。
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