日ASEANビジネスウィーク2021

加速するASEANのトランスフォーメーション、日本ビジネスの新挑戦
2021年5月24日(月)16:00~18:00(日本時間)

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概要

 本セッションでは、東南アジアで活躍するユニコーン企業、ベンチャーキャピタリスト、日系の大企業および中小企業、並びにアカデミアからの登壇者達が、1週間に亘る「日ASEANビジネスウィーク」の全体のエッセンスに触れながら、急速に変革するASEANビジネスのダイナミズムと将来展望について語った。
 まず、東南アジアを代表するユニコーンであるスーパーアプリのGrabのShawn Heng氏から、同社が体現しているリープフロッグ的な急拡大の経緯が語られた。「Tech for Good for Southeast Asia」というビジョンのもと、零細企業支援や人材育成など、東南アジアでの社会課題解決に資する取組を推進してきたことが、具体的事例を交えて紹介された。コロナ禍でデジタル適応が社会全体で不可避となったことを受け、同社では誰一人としてその波に取り残されることがないよう継続的に取り組んでいることが強調された。日本企業に対しては、今進めているデジタル化の取組は将来的に決して無駄にならないこと、また、日本製品、サービス、ノウハウへの強いニーズが東南アジアにあることを訴え、良いローカルパートナーを見つけて東南アジア市場に積極的に進出して欲しいという力強いメッセージが発信された。
 続いて、東南アジア・インドでスタートアップ投資を行っているリブライトパートナーズの蛯原氏から、マイクロビジネス、金融、物流、病院、教育、農業といった幅広い分野で進む東南アジアのDXの現状と、そこで躍動する現地スタートアップのトレンドが、事例とともに紹介された。日本企業にとってスタートアップとの連携が東南アジアビジネスで重要となること、連携にあたっては協業、資本業務提携、買収といった様々な形態に取り組み、自社に適したスタイルを確立していくことが求められると説いた。
 その後、日系大企業の新挑戦の事例として、、三井物産の子会社であるMBK Healthcare Managementの齋藤氏が登壇し、ヘルスケア分野での事業展開の状況と今後の方針が紹介された。アジアの医療における量的ニーズにミートしながら、質的ニーズへの移行、「病院中心」の考え方から「個人(患者)中心」へのパラダイムシフトの加速を推進していく方針の共有がなされた。また、その実現に向けたデジタル化、スタートアップとの連携、およびローカル人材強化の重要性が語られた。
 中小企業の進出事例としては、富山県のメーカー、川端鐵工の川端氏が登壇した。過去20年にわたって東南アジア進出を進めてきたことに触れながら、現在では、現地の社会課題解決に向け地方電化のプロジェクトにも携わっていることの紹介があった。中小企業が海外進出を実現する際には、JICAやジェトロ等の公的機関の支援メニューを有効に活用すべきというアドバイスと、他の中小企業に対しても積極的に海外事業に取り組んで欲しいというメッセージが送られた。
 最後に、東アジア・アセアン経済研究センターの八山COOが登壇した。コロナ禍においてもASEAN諸国は、その製造業の強靭な国際ネットワーク(IPN)に支えられ、着実な経済の回復と継続的な成長が期待されるという見通しが紹介された。その上で、デジタル化の進展とそこに内在するセキュリティ対策の課題、およびサーキュラーエコノミー分野が今後のASEANの成長をけん引するコンセプトとなっていると指摘した。また、エネルギー分野においては、AETI等を通じた各国の実情を踏まえたエネルギートランジションのロードマップ策定支援が重要であることを強調した。その上で、もう一段のデジタル化の促進や、コロナ禍で甚大な影響を受けた観光・サービス業の再興といった領域で今後のASEANにおける成長ポテンシャルが大きいと述べた。

テック・ユニコーンが目指す6億人市場の未来

Shawn Heng(Grab Holding Inc. Managing Director)

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【プレゼンテーション】

 Grabは、2012年に配車アプリからスタートし、その後様々なサービスを提供するスーパーアプリに進化した。現在では、東南アジア全域でサービスを提供している。Grabのサービスは、朝の食事から昼間の移動・決済、そして夜のオンラインショッピングまで、消費者の日常生活のあらゆるシーンで利用可能となっている。
 当社はビジョンとして「Tech for Good, For Southeast Asia」を掲げ、三つのミッション、1) デジタルインクルージョン及びリテラシーの向上、2) 零細事業者のサポート、そして3) 将来に向けた人材育成である。これらは、社内で「ダブルボトムライン」として、金銭的な利益を出せば良いということだけでなく、あらゆるステークホルダーの便益も考慮して事業を推進している。
 東南アジアはデジタル化、金融アクセスもまだまだ拡大の余地がある。2020年にGrabの新ユーザーになったのは4000万人、銀行口座を持てていない人は6割いる。この地域のデジタル化をGrabが今後もリードしていきたい。
 コロナ危機の中での雇用不安や、格差拡大といった社会課題解決に向けた取組として、1)配車サービス需要激減への対応としての食品デリバリーへのシフトとそのための教育、2)乗客向けに感染対策を強化したGrab Protect、医療従事者向けの定額輸送サービスGrabCare、及び3)対面販売をできなくなった零細小売向けのデジタル決済やオンライン販売のサポート等を実施してきた。
 日本企業との連携も推進している。配車サービスでは、単独では難しかったのでJapan Taxiと連携し、5都市で7万台を配車できるようになっている。また、ソフトバンクとも連携しており、モビリティサービスのアプリと旅行予約プラットフォームの相互接続事業者であるSplyt社にお互い人を派遣してビジネス構築をしている。
 東南アジアでは、オンラインサービス(フードデリバリーや決済サービス等)を利用する消費者の拡大余地は大きく、十分なポテンシャルが存在しており、また、日本の製品・サービス・ノウハウを求めるニーズも高い。日本企業との連携のチャンスは多く存在していると考えている。

【質疑応答】

コロナ禍の事業環境への影響

 デジタル化推進の機運はコロナ前から存在したが、それが一気にデジタル化は不可避なものという形となった。また、「安全性」の重要性の高まりも感じている。また、ビジネスパートナーにツールやトレーニング等を提供することも推進した。例えば、GrabAssistantという生鮮食品調達システムを構築し、多くの零細企業に活用してもらっている。

デジタル化の持続可能な継続及び社会全員が裨益するための要諦

 前述のとおりデジタル化は今やあらゆる人にとって絶対に欠かせない必需品となっている。誰一人として取り残さない形で進化を継続させて行くことは非常に重要であり、その実現には向けては、企業側・消費者側への教育、Tier 1都市のみならず、Tier 2~3都市までデジタル化を広げていくこと、そしてマイクロファイナンスの積極的活用が求められると考えている。

日本企業へのメッセージ

 今このコロナ禍で移動の制限がある中で進めているデジタル化は決して無駄になるものではない。東南アジアにはまだまだ大きな成長ポテンシャルがあり、日本企業には是非とも積極的な進出を期待している。その際、良いローカルパートナーと組むことが非常に重要となる。

スタートアップが牽引する東南アジアのDX

蛯原 健(リブライトパートナーズ㈱ 代表パートナー)

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【プレゼンテーション】

 当社は、シンガポール、バンガロール、東京の3拠点で、東南アジア・インドスタートアップ投資を行っている。
 ASEANスタートアップ企業の資金調達額は、めざましい成長を遂げている。直近では世界的に行き過ぎたスタートアップブームに対する調整が入っているものの、東南アジアでは2012~ 2018年の6年間で約40倍に増え、現在は1兆円規模に達している。中でも、Grabや合併を発表したGojekとTokopedia、SEA Limitedなどの「ユニコーン」、「デカコーン」の評価額は、銀行・通信業等を中心とした従来型の東南アジア上場企業のトップ10と肩を並べる水準。
 ASEANでのスタートアップ急成長の背景には「リープフロッグ」が挙げられる。社会インフラが整備されていない分、デジタル技術を活用し、従来のステップを飛ばしたソリューションが生まれる。また、ASEANの人口構成は20~30代の若年層が多く、デジタルテクノロジーの浸透度・習熟度が高い。こうした若年層が起業家やプログラマーとして、行政やレガシーシステムのリーダーシップを担うことも起きている。
 ミクロの実態を見てみると、リテール分野では、例えばBukalapakがインターネット接続もままならない地方都市でアンバサダー制度を採用してEC事業を行っている。こうしたリテール革命は、同時にマイクロビジネス革命を引き起こし、中小零細企業のエンパワーメントにも貢献している。金融のDXでは、銀行口座といった従来型の金融アクセスがなかった人々にスマホを通じてサービスを提供するなどの利便性を提供している。物流では、DXを活用したアーバン物流やラストマイル物流等を通じて、分断されていたサプライチェーンがend-to-endで繋がる革命が起きている。その他、病院・教育・農業のDXも進行しており、ASEANでの産業や生活が大きく変わりつつある。
 最後に、当社が手掛けたASEANスタートアップと日本企業との提携事例を紹介したい。AIを活用したアンチマネーロンダリングを提供するTookitakiと野村證券との資本業務提携、心電図等のチェストセンサ及び関連クラウドサービスを開発するVios Medicalの村田製作所による買収等。東南アジアでは、「インターネットの外のDX」、「地方の課題解決」及び「ソーシャルインパクト」分野でスタートアップが隆盛となっている一方で、市場環境は「細分化」、「非近代的」、「リープフロッグ」等の独特な特徴があり、日本やアメリカとは大きく異なる。そのため、日本企業にとっては、現地のスタートアップ企業、専門機関または政府等の専門家との協働が非常に重要である。

【質疑応答】

東南アジア全体におけるスタートアップ市場・エコシステムの将来性

 DXはまず比較的推進しやすい消費者向けの分野から始まり、その次に、フィンテックやライドシェア等の分野に広がり、その後に、農業・教育等を含む全産業へ波及すると言われている。東南アジアでは、今、最後のステージの産業に投資が行われ、優秀なスタートアップも輩出されつつあり、今後も全方位のDXが進んでいくと考えられる。

中国企業のASEANへの積極投資を踏まえた、日本企業にとっての事業機会・参入余地

 東南アジア市場は非常に広大である為、まだまだ事業機会があると考えられる。オンラインを主流とするEC分野ではアリババ、テンセントの中国の2大ジャイアントによる東南アジアスタートアップへの出資・買収が極めて多かったが、前述した「インターネット外のDX」領域が非常に広大であり、日本企業を含めたプレイヤーの活躍余地が十分存在している。

東南アジアにおける日本企業の勝ち筋

 東南アジアでは前述のとおり、現地の水先案内人・パートナーが必要。数年前のジェトロ調査では、最も黒字化しやすい進出形態は、独資でもJVでもなく、買収ないしはスタートアップへの出資であることが分かった。組み方は、協業、買収、その中間の資本業務提携があるが、様々なやり方を全部やる姿勢、打席に多く立つ意識が重要。また、シード、アーリー期も含めて早い時期からの提携を複数行って、成功したものを拡大再生産していく姿勢をお勧めしている。

日本企業が挑む新たなフロンティア開拓

齋藤 武(MBK Healthcare Management 社長)

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【プレゼンテーション】

 当社は三井物産の子会社でアジアのヘルスケア事業を担当。当社のコア事業であるIHHには2011年に出資、当初16病院だったが、現在10か国・80病院に拡大。マレーシア、シンガポール、インド、トルコで1位ないし2位のシェアを有する。2019年に追加出資して筆頭株主となった後は、1)経営体制強化・事業間シナジー創出、2)事業ポートフォリオ強化・拡大、3)クラスター戦略、による経営基盤強化とともに新成長戦略として、1)DX・データプラットフォーム化、2)地理的拡大・事業領域拡大、3)周辺事業のスピンアウトを推進している。
 東南アジアのヘルスケア市場は、人口増加や中間層の拡大等を背景に、市場の成長とともに医療費の増大が見込まれており、医療の質向上は最重要課題。データ化は遅れている業界だが、スマートフォン・デジタル技術の普及に加え、コロナ禍での非接触ニーズの増加を受け、DXによる課題解決が加速する見込み。当社では、個人のスマートウォッチ等に蓄積されたデータと医療機関データを連携させ、医療の質・価格等での透明性・効率性の向上を図っていこうとしている。
 現在の医療は、「病院中心」で治療行為等のボリュームを重視するインセンティブ設計となっており、医療機関と患者の間に情報格差がある。今後は、アウトカム重視で「個人中心」に移行していき、患者が自ら医療サービスを選択する時代になっていく。業界の現状は、Grabなどのサービスが出る前のタクシー業界と同様、かかる費用や時間、行先などが事前に見えない状況で、ここに大きなパラダイムシフトを起こし、「個人中心」のValue Based Healthcare実現を目指していく。
 最後に、IHHのDX・データプラットフォーム化を起点とした三井物産の事業構想を紹介する。米国では、GAFAが収集した個人のビッグデータを活用したヘルスケアの取組が活発。アジアではまだこうしたプレーヤーはおらず、当社のIHHのデータプラットフォーム化をテコに、出資先のメディカルスタートアップのアルム社を始め、先進国技術・ネットワークの有機的連携でWellnessサービス事業群の創出を図っていく。

【質疑応答】

デジタル化推進に向けたスタートアップとの連携

 これまでは国ごとに電子カルテなど重たいシステムを利用していたが、今後は、データを抽出して一元管理し、そのデータから患者様向けサービスを生み出していく形を目指す。先ほど言及したアルム社のように、医療で重要なデータの匿名性・安全性を担保した上で遠隔でデータ活用を可能にする技術が、従来のシステムベンダーではなくスタートアップから出てきている。当社のネットワークにこうしたスタートアップを加えて、データプラットフォームに活用していきたい。

スタートアップ・新たな技術の探索の考え方

 国・地域にはあまりこだわりなく、新たな技術をアジアにもってきたいと考えている。日米などと比較して、アジアの医療市場はまだ供給不足で、量が増えていく段階だが、質についても、特にデータ化の分野において、急速に先進国に追い付いてきている。その点では、日本含む先進国の技術を持っていき、スピード感を上げていきたい。

各国の特性の違いを乗り越える方策、各国政府との連携の重要性

 医療は国ごとの対応は必要だが、集中購買やデータの管理・活用などはグローバルに対応できる部分であり、ローカルではオペレーションに強い人材、本部ではグローバル視点の人材の配置が重要。このため、IHHでは、他国へのアクセスが容易で多国籍人材のそろうシンガポールを拠点にしている。また、国との連携も重要。足元のコロナ対応もそうだが、様々な医療サービスを展開していくために必要なデータの連携について、法制度整備などが重要になってくる。

東南アジアの遠隔診療の動向

 病院ごとの役割分担、機能分担を行うクラスター戦略を先ほど紹介したが、ここで遠隔診療は重要で急ピッチで進めている。遠隔診療を活用し、病院での診療はできるだけ高度医療に集中したい。現在、東南アジアの遠隔診療はローカルで完結しているが、国を跨いだ遠隔診療ニーズもあり、法制度の整備状況を見つつグローバル展開も検討していく。

川端 康夫(川端鐵工㈱ 代表取締役社長)

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【プレゼンテーション】

 現地でビジネスをしている立場で、「中小企業の新たなる挑戦」というテーマで当社の海外事業や人材育成についてお話ししたい。当社は富山県を拠点に生産用設備機械を製造している。1990年代から30年にわたって東南アジアで事業を行っており、現在では、タイ、フィリピン、ミャンマーの3カ国に現地法人を展開、マレーシア、インドネシアに提携企業がいる。きっかけは、商工会議所の海外視察に参加したことであった。最初は、現地工場からの安い部品の輸入から始まったが、徐々に市場としての位置付けが増し、現在では、東南アジアをより関係の深いビジネスパートナーと捉えている。
 コロナ禍で各国での事業は厳しいが、今はアフターコロナを見据えて海外事業を見つめなおすいいタイミング。現地企業と連携して、現地の課題解決に資するような事業を推進していこうとしており、他の中小企業の海外チャレンジも期待している。進出するに当たってのリスクはあるが、しっかり対策を講じることで低減できる。
 当社は、ASEAN地域での非電化村における電化プロジェクトを進めている。水力・太陽光発電装置の販売だけでなく、地域電力会社を設立する形での電力事業の運営を進めている。本プロジェクトは、現地政府やパートナーとの交渉が必要なため、JICA、ジェトロなどの支援メニューを活用した。F/Sや専門家派遣などのサポートを受け、迅速にプロジェクトを進めることができ、中小企業が海外進出を考える際に、公的機関の支援メニューを有効に活用するべきだと実感した。
 また、中小企業では、社内の海外事業を担当する人材育成が課題。当社では、富山県のASEAN留学生等受け入れ事業を活用した。県のサポートも受けつつ優秀な留学生を採用でき、人材不足に悩む中小企業にはよい制度。まずは日本国内で育成するが、いずれは母国の現地法人の経営を任せたいと考えている。
 コロナ禍やデジタル化の進展で海外展開の方法も変わってくると思うが、新しい仕組みを取り入れて、これまで以上に、積極的に海外事業に取り組んでいきたい。

【質疑応答】

電化プロジェクトの資金調達、海外新規事業継続のポイント

 現地政府・中央政府とも財政余力はあまりないので、企業への協賛や国際機関との協力、ファンドの組成などで資金調達を進めている。また、海外事業を続けていく上では、現地パートナーと連携し、現地目線で事業を進めること、そして、人と人との信頼関係をしっかり構築することが非常に重要だ。

ASEAN現地人材の質の変化、現地人材の育成

 この20年間で現地人材の質がずいぶん変わったと実感している。優秀な人材が豊富であり、中小企業にとって人材面で非常に魅力的。プレゼンテーションで紹介した、富山県のASEAN留学生等受け入れ事業に加え、AOTSの受入れ研修事業も活用して、現地エンジニアを日本で研修させた。日本語研修がしっかり行われたあとに、社内での研修を行ったので技術伝授等をスムーズに行うことができた。同社員は、現地の幹部社員として他の社員を指導している。

日本の中小企業経営者へのメッセージ

 まずは、海外事業に興味を持っていただくことが重要である。小さなきっかけと、はじめの小さな一歩を踏み出す少しの勇気があれば海外進出は実現できる。きっかけはジェトロのセミナーなど色々とある。最初から高いハードルを設ける必要はない。ASEAN地域は製造拠点としても消費市場としても魅力的であるため、日本の中小企業には最適な地域である。

ポストコロナの世界をリードするASEAN

八山 幸司(東アジア・アセアン経済研究センター COO)

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【プレゼンテーション】

 2020年、ASEAN地域の成長率は世界平均並のマイナス3.3%であった。観光をはじめとするサービス業はロックダウン政策の影響で継続的に落ち込んでいた。一方、製造業は強靭な国際生産ネットワーク(IPN)により、一時的な落ち込みから2021年にはコロナ前の水準まで回復する見込みである。2022年以降、ASEAN地域は5%台の高い経済成長が見込まれている。
 また、当機関の調査では、6割以上の企業がコロナショックに対応しサプライチェーン上の変更・見直しを実施したと回答した。柔軟にサプライチェーンを変化させることで、新たな回復軌道に移行する地域の産業ダイナミズムが現れている。さらに、同調査により、6割以上の企業が不要不急の出張の取りやめによるコスト削減等の受動的な対応をしている一方で、デジタル化等、今後のショックも見据えた能動的な対応を実施した企業は2割に留まっている実態が明らかになった。
 電子商取引(eコマース)におけるASEANの世界シェアは急成長しており、今後も更に成長していく見込みである。ASEANの中で、インドネシアの電子商取引市場の成長は最大・最速である。一方、2020年の国連調査では、ASEAN各国の電子政府(デジタルガバメント)進展はまだ低い水準にある。
 ASEANでのデジタル化の進展に比べてサイバーセキュリティ対策の低い国が多く、セキュリティ課題を抱えている国が多い。セキュリティ対策がなされないまま急速にデジタル化が進んでしまうことで、セキュリティ問題が実経済に大きな悪影響を与える危険性があると考えられる。ただ、そういった課題にこそビジネスチャンスがある。日本の技術が積極的に貢献し、ASEANの発展と一体で大きく成長することが可能である。
 ASEANでのサーキュラーエコノミー(循環型社会)は、新しい技術、投資を呼び込み、社会システムが大きく変換していくことで、今後のASEAN の成長をけん引するコンセプトとして考えられ、今年のASEAN会議の主要テーマにもなっている。サーキュラーエコノミーの推進には、官が大きな方向性を打ち出していくことが重要であり、ASEANは今その方向性を打ち出したところである。日本の技術は世界的に高いレベルであり、早い段階からASEANサーキュラーエコノミーの枠組みにビルトインされることで、 ASEAN の発展と一体で大きく成長することが可能となる。

【質疑応答】

インドネシアのEコマースが急成長した背景

 インドネシアは人口が多く、スマホの普及率も非常に高いこと、また多くの島からなる地理的要素も影響していると考えられる。

ASEANでのサイバーセキュリティ課題

 現時点はセキュリティ面で不安があると言える。しかしながら、ASEANでこの分野の意識が高まっており、各国での法制度整備の動きも見られている。サイバーセキュリティの課題は、各国連携が重要であり、その中で、日本はASEANと一緒に向き合い、制度や仕組みを作っていくことが必要である。

サーキュラーエコノミー推進におけるファイナンス面での持続可能性

 各国の政府が大きな方針を打ち出して、関連制度や枠組みを整備することが重要である。そして、社会の意識も噛み合うことで、民間企業も安心して投資できるようになり、ビジネスが進めやすくなると考える。

AETIロードマップ策定支援に対するコメント

 それぞれの国・地域で状況が異なる中、ASEAN各国の実態を踏まえて、脱炭素社会に向けたシナリオを作成していくことが非常に大事だ。ERIAではそのような観点で、具体的な取り組みに関するシナリオ作りを行っている。

ポストコロナ時代におけるASEANの中長期的な成長ポテンシャル

 2つの重要なポイントが挙げられる。1つ目は、デジタル化の深化である。これまで急速に進んできたが、もう一段、もっと新しい領域へ踏み込んだデジタル化が求められている。2つ目は、大きな打撃を受けた観光・サービス産業の復興である。ワクチンの普及や新旅行スタイルの提案等、様々な取り組みを検討すべきだ。

問い合わせ先

日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)事務局 鈴木

E-mail:disg@ameicc.org