日ASEANビジネスウィーク2021

ASEANにおける新たなグリーンビジネス展開
2021年5月26日(水)13:00~17:00(日本時間)

3日目の画像

概要

 本セッションでは、グローバル、およびASEANの今後の成長およびこれからの日ASEAN協力における重要なキーワードである「グリーン成長」に焦点を当て、日本およびASEANの産官学それぞれの分野からの登壇者が、ASEANにおけるグリーンビジネスの現状や、日本・ASEANの実情を踏まえた形でのエネルギートランジションの重要性につき、ファイナンスや製造業の視点から闊達な議論がなされた。
 まず経済産業省通商政策局の広瀬局長、日本経済団体連合会副会長・ENEOSホールディングス代表取締役会長グループCEOの杉森氏、ASEANビジネス諮問評議会Yanty Rahman議長の3名からの開会挨拶にて幕を開けた。
 経済産業省の広瀬局長は、良質で安価な労働力を最大限に生かしながら国境を越えた複層的なサプライチェーンを構築してきたこれまでの日ASEAN間の協力関係・信頼関係を評価した。その上で、ASEANの経済発展に伴い、生産拠点としてだけでなく、消費市場としての重要性がより一層高まっていること、また、現地のデジタルトランジション(DX)は日本を上回る勢いでリープフロッグ的な拡大を見せていることの2点を注目すべき変化として強調した。また、ASEANにおいて、経済成長の実現と気候変動への対応の両立・好循環を生み出すために、日本はASEANと向き合い、新たな支援枠組みであるAETIも活用しながら、各国の実情に沿った解決策を模索していきながら、新しいビジネスを共創していくことの重要性を訴えた。
 日本経済団体連合会副会長・ENEOSホールディングス代表取締役会長グループCEOの杉森氏は、2019年12月に公表した「チャレンジゼロ」や、経済産業省と連携した低炭素社会に向けたイノベーションに挑戦する企業をリスト化して投資家等に情報提供していく「ゼロエミチャレンジ」プロジェクトといった経団連としての取組を紹介した。
 ASEANビジネス諮問評議会Yanty Rahman議長は、気候変動に対する脆弱性の高い東南アジアにおいては、域内国際協力の促進、及び関連対策の早期構築が重要である旨を強調した。また、日本のサステナブルな経済開発能力や高いリサーチ能力、並びに質の高いインフラ整備力を評価し、日本企業にASEANビジネスを拡大するよう呼びかけた。
 東アジア・アセアン経済研究センター Senior Energy EconomistのPhoumin Han氏は、ASEANにおけるエネルギートランジションの現状とロードマップについて説明し、ASEANにおけるカーボンニュートラルに向けたシナリオシミュレーションの中間結果を紹介した。ネットゼロ実現にあたり、CCUS等の革新的技術の重要性が確認されるとともに、低炭素化技術の経済コストとのバランスや、トランジションを進めていく中でのエネルギーセキュリティの重要性も併せて強調した。
 続く、パネルディスカッションでは、ASEANにおける「グリーン成長」や「持続可能な発展」をテーマに、金融、商社、製造業といった関連ビジネスの視点から、アジアにおける現実的なエネルギートランジションを進める上で鍵となる「ファイナンス」という切り口から議論を行った。その中で、欧米基準をそのまま適用するのではなく、ASEAN各国の実情に合ったエネルギートランジションに係るロードマップが必要となること、その一方で欧米を含むグローバルに対して透明性をもって積極的にアジアの実情を発信していくこと、及びその中で日本が主導的役割を担っていくことの重要性が確認された。
 後半のパネルディスカッションでは、製造業の経営層が登壇し、変革期にある「ASEANの今」についての見方を共有した。ASEANはもはや単純なモノづくり拠点ではなく、現地企業とアライアンスを組み、対等なパートナーとして新たなソリューションと事業を共創し、ASEAN当地での展開のみならず、日本への逆輸入や他国・地域にビジネス展開するという段階に来ていることを確認した。

開会挨拶

広瀬 直(経済産業省 通商政策局長)

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 現在、世界は、コロナによる感染拡大のみならず、コロナ危機から生じたもの、ポストトランプの要因から生じたもの、コロナ前から存在していたトレンドを加速させたものまで、大きな地殻変動の中にある。貧困・格差問題、デジタル経済の進展、環境・人権への関心の高まりなど、現在の国際情勢を読み解く上での様々なキーワードが各人の中に存在するのではないか。米国バイデン政権の誕生により、世界は国際協調路線に舵を切り始めている傾向も見られる一方、ワクチンを巡る争奪戦に見られるように、自国優先・保護主義へのリスクは依然として残っている。
 そうした中、昨年11月にはRCEP協定がASEAN10ヶ国に日中韓豪州ニュージーランドを加えた15ヶ国によって署名された。15ヶ国をビデオ会議でつないだ、その署名の場では、8年間に亘る交渉の成果として、ASEAN諸国の昂揚感が伝わった。コロナによる経済原則、内向き思考が進む中、世界との貿易・投資を促進することで、成長を実現したい、このチャンスを逃したくない、それをASEANがリードするという強い思いが現れている。
 ASEANに対するアンケートでは、最も信頼できる国は「日本」という回答が一番多い。その信頼関係は、一朝一夕に出来たものでなく、日本の産業界の皆様の長年の努力なくして語ることはできない。90年代以降、ASEANを多くの日本企業が重要な製造拠点として位置付け、投資を拡大し、産業を育成しながら、ASEANの良質で安い労働力を最大限に生かした複層的なサプライチェーンを構築してきた。こうした特別な経済関係の歴史が、日本に対する信頼の源である。
 同時に、今、私たちが意識しなければいけないのは、ASEANでのビジネス環境が急速に変わってきていること。一つ目の変化は、ASEAN自身の経済が豊かになってきていること。2010年以降、ASEANの実質GDP成長率は、5%前後で安定的に推移し、1人当たりGDPも順調に拡大している。都市・農村、ASEAN加盟国間の格差は未だ存在するものの、将来に向けて非常に高い成長ポテンシャルがあり、世界においてもその存在感を拡大している。今やASEANは、安価な労働力を活用した生産拠点という意義だけでなく、「マーケット」としての重要性が高まっていると言えよう。
 もう一つの急速な変化は、デジタル経済化である。ASEAN経済のデジタルトランスフォーメーションは日本を上回る勢いであり、リープフロッグ的に拡大している。コロナ危機で多くの産業が苦戦する中、デジタルを活用するビジネスはさらに伸びている。都市部の交通事故・渋滞、農業・漁業の生産性向上を通じた地方貧困の解消、地方での医療アクセス改善等、アジアには様々な社会課題がある。そうした課題をデジタル技術を用いたビジネスを通じて解決する、この担い手になっているのがASEANの新興企業。超先端技術ではなく、色々な企業が事業分野の壁を乗り越えて、既存技術やIT・データ活用のノウハウ、少しのアイデアを持ち寄り、まずは試行錯誤しながら始めて、走りながら改善していく、というスピード勝負のオープンイノベーションビジネスモデルがそこにはある。
 中国・韓国等の他国企業の進出も活発になり、もはやASEANは日本の独壇場ではない。しかしながら、最も信頼できる日本企業と一緒にやった方が安心だという期待は依然として根強く、そして、その期待に、日本がオープンイノベーションの時代に、どのように応えていくか。ASEANで工場を建設し、自国中心のサプライチェーンを構築するというような、これまでの成功パターンとは少し異なる方法かもしれない。むしろ、地場企業とアライアンスを組んで、対等なパートナーとして事業を生み出していくという「共創」のアプローチが重要である。そこで、日本の強みを生かし、差別化を進めながらニーズに即した形でビジネスモデルの転換を図っていくことで、他国との競争を勝ち抜いていく必要がある。
 経済産業省では、「アジアDX戦略」として、新しいオープンイノベーションの取組を支援しており、23件のプロジェクトを採択している。日本国内よりはASEANのほうが、社会課題の所在が鮮明で、規制も厳しくなく、デジタルを活用した新しいビジネスの芽をリープフロッグ的に伸ばしやすい。そこでの成功事例を日本に逆輸入するといったことも有り得る。
 その中で、他国と差別化できる日本の強みは、とりわけ、どのような状況でも問題が生じたときにその解決を根気よくやり遂げる日本企業の「現場力」への「信頼」にある。これこそ、産業界の皆様が、長年の間培ってきた貴重なアセットである。それと同時に、オープンイノベーション時代に必要なのは、今動いている事業現場の発想から飛び越える新しい構想力。既存の事業領域やビジネスの部分最適に目を奪われると、5年から10年先の勝ち筋や全体最適の答えには届かないかもしれない。一昨日の経産省の審議会においても、日本企業の現地法人には、地域横断で見ていく地域本社機能が未整備なのではとのご意見があった。既存の現場に根付く「足腰」と、未来を先取りして、既存の事業分野の壁を越えて変革をリードする「目」と「パッション」を組み合わせてこそ、今後の飛躍につながる「勝ち筋」が見いだせるのではないか。
 社会的に気候変動問題への関心が高まっている中で、ビジネスの中でグリーン対応が求められている。ASEANでもその波は急速に広がっていくと想定される。引き続き、この地域にとって不可欠な「経済成長の実現」と「気候変動への対応」の「好循環」をどのように作っていけるか、日本として、この難題にASEANと共に向き合い、解決策を模索していくことで新たなビジネスチャンスにつなげていけるのではないか。今回のウェビナーが、日系各社の皆様にとって、次なるASEANへの事業展開を社内で議論頂くきっかけとなり、そして、ASEANの期待に応えられる契機となれば幸い。

杉森 務(日本経済団体連合会 副会長、ENEOS HD㈱ 代表取締役会長 グループCEO)

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 昨今の世界各地における異常気象の増加を背景に、気候変動への対応は喫緊の課題となっている。同時に、気候変動対策を、コロナ禍の中の復興や産業競争力強化ひいては経済成長に繋げていく「グリーン成長」は注目を集めるようになっている。
 日本でも、菅総理が2050年にカーボンニュートラルを達成することを宣言した。現在、その実現を新たな成長戦略と位置づけ、官民を挙げた取り組みが進んでいる。経団連は過去20年以上に亘り、低炭素社会実行計画をはじめとする気候変動に対応する取り組みを主体的かつ着実に推進してきた。
 一方で、脱炭素社会の構築は、既存技術普及等のような従来の取り組みの延長だけでは実現が困難である。企業はこれまで以上にイノベーション創出に取り組んでいく必要がある。これらの認識のもと、経団連は、2019年12月に「チャレンジ・ゼロ」構想を発表した。参加希望企業は、まず脱炭素社会実現に向けたイノベーションへの挑戦を宣言する。そのうえで具体的なアクションを公表する。ここでの具体的アクションは、三つの種類がある。1)再エネ・水素・CCUS・EV等のネットゼロエミッション技術や、エネルギー効率改善技術等を含む革新的技術開発へのチャレンジ、2)コスト低減等を目指し、そうした幅広い技術の積極的な社会実装・普及に向けたチャレンジ、3)それらのチャレンジに取り組む企業への積極的なファイナンス、である。
 2020年6月までに、137社の賛同と305件の野心的なチャレンジの表明があり、現在では、180を超える企業・団体から380以上のチャレンジが表明されている。当社ENEOSグループは、大気中に排出されるCO2の大量削減とエネルギー資源開発の両立をチャレンジ・ゼロに登録した。回収したCO2を老朽油田に圧入し原油を増産させるCO2-EOR技術で実現するものである。この技術は米国で先行して実施しているが、ASEANでもインドネシア国営石油会社プルタミナと、CO2-EORを含め、上流事業全般の共同スタディ・事業検討を進めている。
 また、昨年10月には、経済産業省と連携し、低炭素社会に向けたイノベーションを挑戦する企業をリスト化して投資家等に情報を提供するプロジェクト「ゼロエミ・チャレンジ」も開始した。
 イノベーションの成果である脱炭素技術やソリューションをASEAN諸国にも展開し、世界のグリーン成長に積極的に貢献していくことも日本の重要な役割だと考える。経団連として、こうした取り組みを通じて地球規模のカーボンニュートラルの実現に果敢に取り組んでいきたい。

Yanty Rahman(ASEANビジネス諮問評議会 議長)

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 気候変動は人々の生活や社会、経済に打撃を与えている。特に、東南アジアは気候変動に最も脆弱性のある地域の一つであり、諸対策を今講じなければならない。さらに、コロナ危機でその影響がさらに悪化し、今までの開発実績が失われる恐れもある。
 この中で、ASEAN包括的復興枠組み(ACRF)の重要性が一層高まっている。域内の国際協力を強化し、持続可能性を念頭に置きながらインフラ整備していくことが重要である。日本は、素晴らしいサステナブルな経済開発を遂げてきた先進国であり、持続可能な経済開発能力、それに関連するリサーチ能力、並びに質の高いインフラ整備力を持ち、東南アジアとして学ぶべき点が多くある。
 東南アジアでのサステナブルな経済開発に当たっては、投資家や金融機関からの安心感や現地パートナーによる強力なサポートが不可欠である。再生可能エネルギーが果たす役割は非常に大きいが、一方で人々のニーズを満たし、必要なエネルギーに容易にアクセスできるような「人間中心」の考え方が重要である。
 ASEANは、零細・中小企業も含む、包括的で持続可能な経済成長を戦略的なテーマとして位置づけており、強靭性のあるサステナブルな未来にむけ、関連対策を早期に講じなければならない。長年にわたって強い絆を持っている日本企業にも是非ご協力頂きたい。

基調講演 ASEANにおけるエネルギートランジッションに向けたロードマップ

Phoumin Han(東アジア・アセアン経済研究センター Senior Energy Economist)

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 ASEANにおいては国によって社会・経済・自然条件が異なっており、その状況に応じて脱炭素化の道筋も国によって異なるものになる。ASEANでのエネルギー需要は経済成長に伴って増加の一途をたどり、2050年には現状の倍にまで増加する見込みである。その経済成長、増大するエネルギー需要にしっかり対応をしながら、エネルギーコストやエネルギーセキュリティの観点も同時に加味した形でカーボンニュートラルに向けた道のりは検討することが必要となる。
 再生可能エネルギーのポテンシャルを見ると、ベトナムとフィリピン以外のASEAN各国は、EUと比較して風力エネルギーが乏しい。太陽光エネルギーのポテンシャルは期待できるが、大規模のソーラーパネル普及には課題も多い。また、経済性の観点から、ASEAN地域においては、2050年時点でも、再生可能エネルギーコストは化石燃料コストを全面的に下回ることも想定しにくい。また、太陽光発電が出来ない夜間の電力供給を風力発電で賄うという対策が考えられるが、前述したASEANでの風力ポテンシャルの乏しさから、容易には実現できない。そのため、エネルギー貯蔵キャパシティの向上とASEAN全域における系統接続性の強化が大きな課題であると共に、化石燃料のクリーン活用技術やCCUSといった二酸化炭素貯留技術の導入も重要だと考えている。
 東アジア・アセアン経済研究センターでは、ASEANの現状やIEA等の国際機関の調査結果に基づく一定の前提を置いた上で、ASEANにおけるカーボンニュートラル実現に向けたシナリオについてシミュレーション分析を実施中である。その中間結果から、ASEAN各国で状況が異なる点からその目標を実現できる時間軸が異なってくることや、700US$/tCO2レベルの高い炭素価格の設定が求められることが見えてきた。カーボンニュートラルの目標達成に向けては、膨大なコストがかかるため、今後は、コストの負担可能性と技術的な実現可能性の両方の観点からしっかり議論する必要があると考えている。

パネルディスカッション① アジア版トランジションファイナンスの重要性

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パネリストによるショートプレゼンテーション

玉木 直季(㈱国際協力銀行 インフラ・環境ファイナンス部門 電力・新エネルギー第2部長)

 当行は、日本企業によるポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現を目的として、「ポストコロナ成長ファシリティ」を創設した。このファシリティは、1) 脱炭素社会に向けた質の高いインフラの海外展開やその他の海外事業活動を支援する「脱炭素ウインドウ」、及び2) サプライチェーンの確保・再編・複線化等による強靭化を支援する「強靱化ウインドウ」の2つから成る。
 脱炭素に関連したファイナンスを論じる際、欧米からは「ダイベストメント(投資撤退)」という言葉がよく出されるが、それよりも大事なのは、我々アジア人としての「エンゲージメント(積極的な関与)」だと考えている。例えば、当行は、ベトナム政府に対し、エネルギー政策転換に向けたハイレベルでの働きかけを実施していた。そのほか、蓄電分野の日本のスタートアップ企業の海外展開に向けた出資や海外水素ステーションインフラ拡大に向けた出資等も「エンゲージメント」の一つとして挙げられる。こうした形で、地球全体のカーボンニュートラルに向けた取り組みをサポートしていきたい。

藤木 正行(㈱三菱UFJ銀行 ソリューションプロダクツ部 部長)

 当行は、1980年代から、社会インフラを支えるプロジェクトファイナンスに取り組んできた。現在は世界各地で300名以上の人員体制を構えており、リーグテーブルで大きな存在感を示している。
 ASEANは、当行の大マザーマーケットとして位置づけ、当行のグループ会社であるタイやインドネシアの地場銀行は各国市場でプレゼンスを発揮し、ベトナムやフィリピン等でも当行の出資先である銀行がある。
 現在は再生可能エネルギーやESGファイナンス分野に非常に力を入れており、直近の案件事例としては、台湾洋上風力プロジェクトやマレーシアの太陽光発電プロジェクトが挙げられる。今後は、こうしたグローバル実績を生かし、日本ひいてはアジアの脱炭素プロジェクトに貢献していきたい。

多和 淳也(㈱JERA 経営企画本部 企画部部長)

 当社は、日本国内電力供給の約3割に関わっているエネルギー会社である。その3割のうちの約8割強は、LNGによる発電となっている。ASEAN地域においては、7ヶ国で約5GWの発電PJを展開している。
 ASEANにおけるエネルギートランジションの勢いを実感している。特にLNGへの注目が近年高まっており、各国企業から引き合いを多く受けていた。それらの商談は、1)従来の国産ガス利用からLNG輸入へのリプレース、2)従来の重油発電からLNGへの燃料転換、3)石炭火力を停止してLNGプロジェクトに変更、 という3つに分類される。この内、特に3つ目の動きは新しい潮流であり、こうした動きの背景には、高い経済成長に尽きる。それを支えるエネルギー需要の全てを再生可能エネルギーだけで賄うことが非常に困難であるためである。
 ガス火力を建設することが“Lock in”と非難されていることも承知しており、事業者としての努力が求められていることは理解。
 当社は、昨年10月に、「JERAゼロエミッション2050」を宣言し、次の3つのアプローチを取っている。1)再生可能エネルギーとゼロエミッション火力の相互補完、2)国・地域に最適なロードマップの策定、3)スマート・トランジションの採用 である。
 将来のCN宣言を宣言すれば、足元でLNGを利用することはCN実現に向けた長いプロセスの一部であり、“Lock in”には当たらないと考えており、だからこそ、LNG利用を続けるのであれば、CN宣言は必要になると考えている。
 なお、事業者として努力すべき点としては、以下の3つがあると認識している。
 1)カーボンニュートラルに向けた時間軸を設定し、そのプロセスで様々な選択肢を検討すること。2)LNGの先にある選択肢を検討すること。JERAでは、水素社会のドアオープナーとして、アンモニア混焼の商業運転を目指し、実証事業を実施している。そして、3)LNGサプライチェーン全体における低炭素化である。アジアにおいては、ユーザー・サプライヤーは一枚岩であり、LNGが必要であることに変わりはない。
 アジア地域で、エネルギートランジションは確実に起こっている。ユーザーの声から、その中でLNGが重要な役割を果たしていると考えているので、引き続き各国のエネルギートランジションをサポートしていきたい。

須田 俊之(㈱IHI 戦略技術統括本部戦略技術プロジェクト部 部長)

 当社は、日本の重工業の企業の一つとして、石炭火力やLNGのターミナルなど、資源・エネルギー・環境に関する設備を納めさせてきたことを通して、ASEANの経済発展に貢献してきた。カーボンニュートラルに向けた動きの中では、技術者として、今まで取り組んできたことを生かし、既存のアセットを活用しながら、カーボンニュートラルを目指すのが現実的なアプローチだと考えている。
 ASEANにおいて、当社は火力発電から、バイオガスやカーボンリサイクルプロジェクトまで、幅広い事業を展開している。
 当社のカーボンニュートラル社会の将来ビジョンは、以下3つのポイントがある。1)発電分野のカーボンニュートラル:化石燃料中心から再生可能エネルギー中心への移行、2)移動燃料分野のカーボンニュートラル:電化のほか、既存インフラを活かしたバイオ燃料やe燃料の活用、そして、3)素材・原料分野のカーボンニュートラルである。
 上記将来ビジョンを実現するには、コスト等ハードルが高いため、トランジションのルートをしっかりと検討する必要がある。当社としては、各段階におけるアフォーダブルな技術を準備し、各国の経済発展を維持とカーボンニュートラルの実現に貢献して行きたい。

1st topic: アジアの経済成長・エネルギー需要に対する脱炭素化の国際的な潮流のリスク・脅威

  • 藤木(三菱UFJ銀行)

  • アジアでは、2050年までに電力需要が益々大きく伸びていく中で、欧米のフレームをそのまま持ってきてもワークしないので、経済発展と脱炭素、この動きをどのように両立していくかということが非常に大きなジレンマである。

    アジア各国の実情にあった形のサポートが必要で、日本企業はそれを実現できる技術を有していると考えている。

    一方で、ASEAN各国でカーボンニュートラルに向けたロードマップをしっかり策定してもらうことが重要。その際、アジア各国独自の独りよがりであると、欧米から非難を受けぬよう、しっかり欧米も含めたグローバルにコンセンサスを得られる形にすることが求められる。

    また、バーゼル規制やOECDの規制等、国際的なルールメーキングの動きも脅威と見ている。アジアの事情を加味しながら支援は行う一方で、国際社会に対してアジアの状況をしっかりと発信し、理解を得ていくプロセスを進めるという両面の動きが非常に重要。

    開示制度についても、国によって情報開示の要件や手続きが異なると、金融機関にとってはコスト増となりえるリスクの一つ。

  • 玉木(JBIC)

  • 金融機関の目線でみると、開示義務がリスクの一つだと捉えている。

    欧米の厳格な基準をそのまま押し付けられるのは現実的ではない。地域の経済発展や人々の生活の質を犠牲にしてまでカーボンニュートラルを優先するのかという点も考慮すべき。人道的にも実現可能な範囲で支援することが必要。

    加えて、再生可能エネルギーと蓄電池で解決するといった場合に、蓄電池を作るためのリチウムを地球の裏側で掘られていることで環境破壊が行われるという事例のように、地球レベルでのリスクも忘れてはいけない。

  • 須田(IHI)

  • 数年前まではアジアの顧客はエネルギーのクリーン利用には無関心だったが、最近は環境配慮型の技術に関する提案依頼が増えている。

    IHIとして意識しているのは極端に高度で使いにくい技術を押し付けのように提案しないということ。極端に再エネが良いというのではなく、例えばアンモニアの混燃技術のように、既存のアセットを活用しながら最小限の改造で、かつ現地の技術者のスキルで対応できる技術を提供できるものをしっかり発信していきたい。各国の事情に即した現実的で最適なソリューションを提示していく。

  • 多和(JERA)

  • 欧米のルールがデファクトスタンダードとなってしまい、再エネ利用を強要されることは、アジア各国の多様性や各国が望む経済成長のスピードや道筋が受けとめられなくなってしまいかねず、非常に危険であり大きなリスクだと感じている。

    また、レジリエンスの観点からも、安価な電力の安定供給を、変動制再エネ電源と電力市場自由化を併せて進めていく中でいかに実現していくかの掛け算が重要。レジリエンスをどう支えるのかという点について、大陸型国家で非常に大きい送電線網・ガスパイプラインが構築されているところと、海洋型国家でエネルギー拠点が点在している国とでは、やはりレジリエンスの支え方が違うことを留意しなければならない。再エネのみでしか電力供給が許容されなくなると危機が生じる可能性が高い。

2nd topic: アジア版トランジションファイナンスを進める上での安心材料

  • 藤木(三菱UFJ銀行)

  • グローバルベースのコンセンサス形成に当たり、正直に申し上げると、ぴったりな機関があるかと言われればまだないが、国連や世界銀行の関連機関からの認証を得ることは一案だと考えている。

    認証取得の基準については、これだけ動きが早い分野においてあまりに具体的な基準を作ると今後の激しい変化に耐えられない一方で、漠然とした基準では実際の運用の際に関係者が戸惑う可能性もある。こうしたジレンマがあることを念頭に置きつつ、まずグローバルで声を上げていくことが必要ではないかと考える。

  • 玉木(JBIC)

  • 個人的にトランジションという言葉が分かりにくいと感じており、トランジションファイナンスを考える上では、化石燃料から再生可能エネルギーへのトランジション期間を支えるファイナンスは狭義のトランジションではなく、自動車や他産業含め温室効果ガス排出量を削減し、地球温暖化を解決するという広義のトランジションの視点が必要。

    JBICは現在、グリーンファイナンスをつける上で、IEAが公表している各国の平均的な値よりもCO²排出量が少なく、効率的で電気ロスも生まれない等環境に配慮した基準をみたしたプロジェクトについて、カーボンニュートラルに貢献するものと評価しファイナンスをつけるという運用を行っている。数字で見えて評価できるものなので、納得できる基準であると考える。

  • 須田(IHI)

  • 信頼性のある技術を示すことで、金融機関が安心してプロジェクトに投融資できるようになると考えている。

    日本企業はこの分野でリードできると考えており、各国のCNに向けたロードマップに貢献する技術に安心して投融資していただけるよう、技術の国際規格化という点では、早い段階からASEAN各国と一緒に取り組んでいくべく、動いているところ。

  • 多和(JERA)

  • 実務の観点からは、プロジェクトがロードマップに合っていることが保証されなければ、事業開発を行った後にリスクが残ってしまうため、個々のプロジェクトまで落とし込まれた粒度でのロードマップ策定が重要と考える。

    また、グリーンであることの認証については、各国の国内法・NDCとの関係で、個別の発電においてどのように排出量が削減されるのかという点と、国際資源市場からみたときにその発電で使われる燃料がどの程度グリーンなのか、という二分法で考えるべき。

3rd topic: 各国の電力マスタープラン・ロードマップ策定支援にあたってのポイント

  • 玉木(JBIC)

  • ハイレベルの対話に加え、実務レベルでの意見交換やセミナー開催等の形で頻繁にディスカッションすることが重要である。これらの手法は前述したエンゲージメントそのものと言える。

    今後は、政府がプラットフォームを構築することで、企業が個別に発信していくよりも、産官学一体となって、より効率的に、大きなパワーで相手国政府にトランジションを促すことが出来ると考えている。

  • 藤木(三菱UFJ銀行)

  • 各国のロードマップ策定により早い段階から関与していくことが重要。

    金融機関は制度作りや融資可能性(バンカビリティ)向上の観点からロードマップ策定に貢献できると考えており、技術等を知り尽くした産業界からは、実務の観点で提案することもできる。

  • 多和(JERA)

  • マスタープランの強みは、送電線網を理解して、リアリティのある計画。今後は、足下の電力安定供給を担保しつつ、カーボンニュートラルという新しい概念を取り入れつつ、そこに向かう道を用意し、パッケージ化しなければロードマップと呼べない。

4th topic: ASEAN版タクソノミー策定に向けた日本の貢献

  • 須田(IHI)

  • 相手国の実情にあったソリューションのメニューを提示していくことだと考えている。各国の研究者や政府機関等を招待して、カーボン技術に関する説明会を開いて、プレゼンを行った。こうした地道な活動が別の国でのプロジェクトに繋がったりと、大きなムーブメントになるので重要。国が気軽なディスカッションの場を作ると良い。

  • 多和(JERA)

  • ロードマップ作りは総合芸術であり、技術、エネルギー・電力供給等を理解した上で、当然ながら、本日の主テーマであるファイナンスがこれで付くのかどうか、今のトレンド・環境の文脈で受け入れられるものになっているのかも理解しなければならない。

    エネルギービジネスには政府の役割が非常に大きいので、日本政府として、ロードマップに基づく技術だけでなく制度も含めたパッケージ輸出を可能とするクロスボーダー的な座敷が非常に有用であると感じている。

  • 玉木(JBIC)

  • 制度も含めたパッケージ輸出は、各国の事情に沿った形としていくことが重要。日本は産官学が連携してチームとしてASEAN各国と向き合い、トランジションを促すことが必要である。

    日本の方式を押し付けるのではなく、仲間として一緒に考えていくことが求められている。また、ASEAN各国と個別に議論する際に、現地でビジネスを行っているASEANの他の国のディベロッパー等を巻き込んで協力することも重要。

  • 藤木(三菱UFJ銀行)

  • アジア版のトランジションファイナンスの枠組み作成に当たっては、アジアのみならずグローバルベースでのコンセンサスが得られるよう、ASEAN諸国と日本においてトランジションファイナンスに本気で取り組んでいる方達が一緒に二人三脚で進めて、声を大きくしていくことが重要である。

Closing: 個人として、アジアトランジションにかける想い

  • 玉木(JBIC)

  • アジアの中で、近年まで日本は圧倒的な経済力を持っており、その過程温室効果ガスを排出してきてしまったことの責任は感じる必要がある。先進技術を持つ日本企業は数多くあるので、そのソリューションを広くテーブルに乗せて、ASEAN各国と一緒にエネルギートランジションを考えていきたい。

  • 須田(IHI)

  • 今の東南アジアは、非常に元気でスピード感のある地域であり、日本企業として学ぶ点が多い。日本の方は技術が優れていると過信することなく、謙虚に進めて行きたい。

  • 多和(JERA)

  • 国家によっては、CO²排出削減に取り組む理由は、地球温暖化対策というよりも、大気汚染のためというもっと生々しい問題を抱えている。その解決のために、石炭からガスへの移行を進めている国に対してガスもダメというのはいかがなものか。次の10年での着実なエネルギートランジション推進に向けては、全ての課題を解決できる画期的な技術を期待するよりも、まず出来ることから一歩を踏み出すことが必要である。

  • 藤木(三菱UFJ銀行)

  • 自身の銀行員キャリアは、アジアにおける社会インフラや発電分野のファイナンスに鍛えられてきたところ、トランジションの文脈で恩返しがしたい。エネルギートランジションに向けた水素や次世代燃料等の分野は金融機関としてもワクワクする夢のある分野であり、積極的に支援を行っていきたい。

  • 早田(METI)

  • 各国のエネルギー責任者と議論する中で、彼らは共通して、経済成長を犠牲にしてまで気候変動対策をやっていくべきなのか、気候変動対策を進めていかなければいけないことは分かるけれども、どう進めていくのかという事を非常に悩まれているというのが私の印象。

    そんな中、本日のパネルディスカッションを通じて、日本として官民を挙げて、アジアのエネルギートランジションを正々堂々と支援していくべきだと改めて実感した。

    その中においては、「エンゲージメント」の精神で各国に寄り添いながら、欧米等の国際社会に対してアジアの実情、考え方について透明性をもって発信していくことの重要性も再認識した。

    また、日本の強みとして、1)産業界の技術、2)官民金融機関のファイナンス、3)産官学の知見・経験が挙げられる。こうした強みを一つのパッケージにして、ワンチームとしてASEANに提供できるようなプラットフォームを今後日本政府がリードして構築していきたい。

パネルディスカッション② 製造業の新たなASEAN展開と脱炭素経営

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パネリストによるショートプレゼンテーション

小堀 秀毅(旭化成㈱ 代表取締役社長)

 当社は1922年に宮崎県で創業し、来年で100周年を迎える。現在の事業はマテリアル領域、住宅領域、ヘルスケア領域の3つを柱としている。
 当社は、「持続可能な社会への貢献」と「持続可能な企業価値の向上」という2つの持続可能性の実現を目指している。カーボンニュートラルでサステナブルな世界の実現に向け、当社は創業以来培ってきた科学の力を挙げて取り組んでいきたい。今ある事業での環境貢献は勿論のこと、次世代エネルギー、炭素の吸収・活用、サーキュラーエコノミーといったこれからの社会への挑戦的課題に取り組んでいきたい。
 こうしたプロセスの中で、今までに無い技術開発が必要であり、その鍵となるのは、「水素」と「CO2の分離回収と利用」と考えている。その代表的な取り組みとして、福島で実施した世界最大規模のアルカリ水電解水素プロジェクト、及びドイツでのALIGN-CCUSプロジェクトが挙げられる。これらを推進するための組織として社長直轄のプロジェクト「グリーンソリューションPJ」を4月に設置し、サステナブルな社会作りの中心的役割を果たすべく、カーボンニュートラル関連事業を中核事業の1つとして育てて行きたい。
 また、持続可能な社会の実現に向け、デジタルも不可欠な手段である。当社の取り組み事例として、マテリアルズ・インフォマティクス活用による素材開発、及び遠隔監視するシステムによる生産性向上が挙げられる。

鳥井原 俊治(㈱前川製作所 取締役 専務執行役員)

 当社は1924年に創業し、産業用冷凍装置等の製造・販売・エンジニアリング・アフターサービス等を主要な事業としている。4737名の社員のうち、約半数は海外の人材であり、ASEAN地域を始め、世界45ヶ国、106事業所、10工場を構えている。
 当社の代表的な製品・サービス適用分野は、大型冷凍倉庫に使われる産業用冷凍装置である。
 最新の産業用冷凍装置には、オゾン層保護、CO2削減、地球温暖化防止、そして省エネルギー機能が求められており、当社は、自然冷媒への取り組みを中心に対応してきた。この分野のASEAN地域における現状は、大規模向けの冷凍設備としてセントラル方式と呼ばれるアンモニア液ポンプシステムがあるが、このシステムは、大量のアンモニア冷媒を必要としており、安全管理上の問題や、省エネルギー対策の課題がある。そこで当社は、日本国内で培った技術である「アンモニア/炭酸ガスユニット方式」を提案しており、従来比20%の省エネが実現できるほか、アンモニア冷媒の充填量も従来比1/50を実現出来る。日本では、この方式を使った冷凍装置に転換するための補助金事業によって、現在では、大型冷凍倉庫におけるアンモニア/炭酸ガスユニット方式が24.6%まで普及している。
 こうした我が国の経験を踏まえ、ASEAN地域においては経済産業省からの支援のもと、その国の冷凍保安規則の見直しや安全管理ができる産業人材育成も含めた「パッケージ」を各国に提案しており、この分野のビジネスを通じて、社会インフラであるコールドチェーンの構築と地球規模の課題解決の双方に貢献していきたい。

小川 立夫(パナソニック㈱ 執行役員 チーフ・テクノロジー・オフィサー)

 当社は、「企業は社会の公器、産業の発展が自然を破壊し人間の幸せを損なう事は本末転倒」を、1970年代から経営理念の一つとして掲げていた。そして、2017年6月に、「パナソニック環境ビジョン2050」を策定した。これは、スコープ1~3すべてを対象とした構想である。
 スコープ1とスコープ2における自社使用エネルギーの削減事例としては、世界各地で展開しているCO2ゼロ工場が挙げられる。また、創エネの観点では、シンガポールにおける大規模な太陽光発電設備のリースや製造・物流分野での水素活用が事例として挙げられる。ハードルの高い分野であるスコープ3においても、地道に取り組んできた。晴海地区住宅でのエネファーム導入や日本発「再エネ100タウン」を実現できたSuita SSTエネルギーサービスが事例として挙げられる。
 今後は、多様な顧客接点をフル活用しながらアジアも含めて引き続き環境貢献をしていきたい。

瀬戸 欣哉(㈱LIXIL 取締役 代表執行役社長 兼 CEO)

 当社は、住宅建材・設備メーカーであり、複数のグローバルブラントで150以上の国と地域で1兆4千億円規模の事業を展開している。
 また、当社では「環境ビジョン2050」を掲げ、2050年までに、事業プロセスと製品・サービスを通じて、CO2の排出を実質ゼロにし、水の恩恵と限りある資源を次世代につなぐリーディングカンパニーを目指している。特に、気候変動対策、水の持続可能性並びに資源の循環利用といった3つの分野に注力している。
 本日は2つの事例を紹介したい。1)廃プラスチック・廃木材のリサイクル:従来、リサイクル困難とされてきたラミネート材や海洋プラスチックなどの廃プラスチックと廃木材をリサイクルし、次世代型の再生木材として路盤材等に活用する取り組みを進めている。これは日本のみならず、海に囲まれた東南アジア地域にとっても非常に重要な技術である。2)途上国向け簡易式トイレシステム:グローバルな衛生課題の解決に向け、安価な簡易式トイレシステム「SATO」と手洗いソリューション「SATO Tap」を展開している。

1st topic: ASEANの位置付けの変化

  • 小堀(旭化成)

  • 1990年代は、安価な人件費をベースにした生産拠点であったが、今後は巨大なマーケットになり得る。

    米中デカップリングを背景に、「グローバル全体」という視点に加え、「地域戦略」の重要性が高まっていると感じている。RCEP合意によりASEAN域内での経済活動の活性化が想定されること、そして、脱炭素社会に向けた日ASEAN協力の必要性・ポテンシャルに鑑みると、当社にとってのASEAN地域の戦略的な意義がさらに高まっており、今後事業推進する上で、重要パートナーだと考える。

  • 鳥井原(前川製作所)

  • 当社の製品は、20年から50年の長期にわたって使用されるものであるため、現時点のコストだけでなく、いわゆるライフサイクルコストや、将来時点の低炭素社会にも十分耐えうる環境性を考慮する視点が必要であり、ASEAN現地の関係者を巻き込んで議論をしっかり重ね、単純なコストコスト競争に陥らないよう理解してもらうように努力する必要がある。

  • 小川(パナソニック)

  • 日本品質にこだわって、現地でビジネスを立ち上げるという発想では、競合のスピード感に全く追い付かない。現地パートナーと手を組んで、現地に適するソリューションを開発・提供することが重要になってくる。また、そこで創出したソリューションは、日本逆輸入するという可能性も十分ある。

  • 瀬戸(LIXIL)

  • ASEANの消費者は欧米と比較すると、環境性よりコストを重視する傾向が依然としてある。ただ、コロナ禍以降、コスト以外の健康面や安全面でのニーズの高まりを感じており、こうしたニーズへの対応が当社の競争力になっていく。

  • 藤澤(経済産業省)

  • 従来の産業協力の主眼は製造業を中心とした「産業集積」を東南アジアに作っていくことにあり、①EPA等による市場統合、②「人材育成」「裾野産業育成」、③AMEICCなどシステマティックな協力枠組の構築などを推進。

    一方、ASEANの関心・ニーズは大きく変化。一つは、地域間の経済格差や環境問題など社会課題解決に関心が高まっており、協力分野も農業・医療・観光等に多様化し、更なる発展のドライブとなる新産業創出も渇望。加えて、グリーンやデジタル等のグローバルの潮流が新たな課題をもたらしており、ASEAN流の対応策を模索。

2nd topic: ASEANの位置付けの変化を踏まえた事業戦略

  • 瀬戸(LIXIL)

  • 節水やメンテナンスしやすさを訴求し、衛生陶器や水栓といった商品を展開してきたが、最近は、廃プラスチック問題に着目し、ASEAN地域でのインフラ整備需要を踏まえ、前述した路盤材等へのリサイクル技術に注力している。

    また、当社は、日本でEX Waterという浄水器や、海外では水栓から炭酸水を楽しむことができるGROHE Blueといった浄水ソリューションを展開し、マイボトル利用増によるペットボトル使用量の削減に取り組んでいる。

  • 鳥井原(前川製作所)

  • 海外展開に当たり、一民間企業や従業員個々の情熱だけでは足りず、国家間連携に基づくハイレベルな戦略策定が必要と認識している。例えば、当社は、経済産業省と連携しながら、ASEANの冷媒分野で制度整備・人材育成に関与し、事業展開を進めてきた。こうした官民一体となった取り組みがあって、日本としての比較優位が生まれてくると考えている。

  • 小堀(旭化成)

  • コロナや世界潮流の変化に伴い、幅広い視点で自社提供価値を再考する必要がある。当社の高い素材力に加え、エンジニア・オペレーション・サービス等といったものを「パッケージ」として提供すれば価値が高まる。

    従って、当社社内でよく「Connect」と言っているが、異業種との連携が極めて重要になる。日本では、政府主導でこうした連携は各分野で実現しているが、ASEAN地域では、水素社会等の分野で現地の有力企業とのコラボレーションをさらに強化していきたい。

  • 小川(パナソニック)

  • 当社の家電事業は人々の暮らしに密着する分野であるため、現地の習慣や使い方によって、デザインがかなり異なっている。現地の顧客体験、生活実態に詳しい現地パートナーと密に連携していくとともに、機構部分等の設計プラットフォームは、日本を中心にグローバルで共通化し、効率的に展開していきたい。

  • 藤澤(経済産業省)

  • グリーンに関するASEANの関心分野への理解(海面上昇や海洋プラスチック、タイBCG経済モデルの紹介)を深めつつ、新たな経済成長の機会としてのグリーンという視点(尼・EV政策の紹介)がポイント。

    今後の協力方針として、①短期と中期的な取組を接続させた「現実的なトランジション」の実現、②ⅰ「経済成長の実現」と、「気候変動への対応」による「好循環」、及びⅱASEANでの新規事業を日本にも環流させ、双方の経済成長に繋げていく「好循環」、以上2つの「好循環」の実現が必要。

将来のASEANの位置付け

  • 小堀(旭化成)

  • ASEAN地域は、当社売上高2兆円のうちの5%程度だが、今後はもっと拡大していきたい。

    ポストコロナ時代の新しい社会を考えると、グリーン、リサイクル、水素社会等の分野で共創していきたい。例えば、ASEANで社会実装を先に実施して、そのソリューションを日本に持ち込むという循環も考えられる。

    また、ASEANでのベンチャー・スタートアップも注目されるようになっており、当社もコーポレートベンチャーキャピタルを設置し、人材の交流も含めて中長期的なパートナーシップを構築したい。

  • 小川(パナソニック)

  • 日ASEANの好循環を形成するために、当社は環境・社会課題解決に向けてESG経営を積極的に行っていく。また、当社の環境ビジョン2050を踏まえ、ASEANの人々と一緒に、暮らしを良くしながら地球環境にも貢献していきたい。

  • 鳥井原(前川製作所)

  • ASEANは地理的に日本に非常に近く、どうしても日本からのオペレーションへの関与度合いが強くなる傾向にある。これからは、より地域に溶け込んで新たな市場を作っていくという意識を強化したい。

  • 瀬戸(LIXIL)

  • ASEAN地域には当社の従業員がたくさんおり、当社の事業が、より豊かな住まいの実現にいかに役立っているのかという役割と意義を理解してもらえるように工夫しながら、各国の事情にあわせて、でどのように貢献できるかを常に考えながら事業を推進していきたい。

    また、ASEANでは、安全安心なモノづくりためのルールメーキングの分野においてさらに強化する余地があると考えている。それに関連して、日本政府・経済産業省の役割にも期待している。

問い合わせ先

日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)事務局 鈴木

E-mail:disg@ameicc.org